ユグドラシル

□高らかに至高の謳は鳴り響き
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世界に歌が鳴り響く。

それは遥かなる太古の契約ではなく。

新たなる『約束』を望む歌。


歌え。
響け。

その音律に世界は歓喜する。




高らかに至高の歌は
神の名
を持って響き渡る









春の風が髪を巻き上げる。

それはまるで意思を持つ様に止む事は無い。

そこはダアトの街を一望出来る高台で、滅多に人の来ない密な自分のお気に入りの場所だった。

独りになりたい時は誰にだってあるだろう。
ここはまさに最適だった。

いつも着けている顔を覆い隠す黒獅子の仮面を外す。

真紅の飾り紐が風に舞う

それは
忘れない為の誓いの色
忘れてはならない
護らなければならない

自分に課した『約束』を

それを思い出す為に
そのために
自分は独りになる


『約束』を忘れ無い為に

思い出す為に
あの真紅を護る事が自分の全てなのだから

唇が歌を紡ぎ出す


記憶に有る懐かしい
少女の歌う
契約の歌では無い

かつての旅の間
口慰みに覚えた歌だった

何処で聞いたのか
何処で覚えたのか

忘れてしまった歌だ



【神々が愛した楽園】



子供でも知っているだろう古い神話の歌

風がいっそう強く吹いた

まるで歌に呼応するかの様に…。


吹いた風の余りの強さに一瞬目を閉じる。


そしてその瞬間に出現した気配に咄嗟に飛びのき剣の柄に手を延ばした。

一瞬で抜刀出来る体制をとる。

直ぐさま攻撃出来る体制を取るのはある種の癖だった

特務師団長として戦場に出る際に必要な能力。
生き残る為に他を殺す為の能力。


クスリと笑う感触。
大気が直に震える。

目の前に居たのは獣だった

有り得ならざる美しき獣。

群青色から浅黄に変わる鮮やかな被毛の体躯

上半身は獣、下半身はまるで魚を彷彿させる不思議な体格

首周りには獅子の様な
飾り毛

人懐こい顔

だが、只の獣では無い知性的な青灰色の瞳


そしてなによりその獣は空を舞う様に漂っていた。






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