ユグドラシル

□約束は生まれ落ちた場所へ
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鮮やかな緑
芽吹く大地。

世界の中心。


神より神託が
預言が降ろされる場所。


宗教自治区ダアト。



「死の神託を降す神なんて必要有るのかね…。」


自嘲的に笑いダアト市街の道を行く。

季節は初夏。

色濃い新緑の木々にまばゆいばかりの降り注ぐ陽の光

平和な世界。

道を行き交う老若男女様々な立場の信者達。

彼等は盲目的に『預言』を信用し信頼している。

己の全ての行動を預言に頼る程に人は愚かだ。



そんな下らないもののために自分の父は、母は、姉は殺され無くてはならなかったのか。

可笑しくて笑ってしまう。

用事が無ければ余り来たい場所ではない。

直接の原因ではないにしろ見殺しにされたようなものなのだ。


家族が
一族が受けた
惨殺が
時を同じくして起こった
戦争が

絶対的な『ユリアの預言』に読まれていないはずないのだから…。

頭が怒りに支配され様とした時、腰に軽い衝撃を感じる。


考え事をしながら歩いていたのがまずかったのかその存在にぶつかるまで気が付かなかった。


「…きゃ!」


小さな幼い叫び声。
転倒する音。

足元を見れば幼い少女が尻餅を付いて転んでいた。

恐らく足で引っ掛けてしまったのだろう。


「おい、大丈夫か?」


少女に手を差し出し抱き起こす。
無意識に体が逃げ出そうとするのを必死で叱咤する。


まだ幼い少女だ。
女性では無い。

大丈夫。


自分には心的外傷があった

家族を殺された時のショックで部分的な記憶の欠落。

そして極度の女性恐怖症。

敵と戦う際や救急を要する時は余り意識しないせいか大丈夫だが、平時ともなるとそうは行かない。

近寄られるだけで駄目だ。


「悪かったな怪我はないかい?」


ふわふわとした亜麻色の髪に榛の瞳、オールドローズ色のワンピースに茶色のスエードのブーツという愛らしい姿の六、七歳の幼女だった。

こくこくと頷き大丈夫と拙い言葉で伝えてくる。


「…あっ!」


何か落としたのか仕切に辺りを見渡している。


「どうした?
何か落としたのか?」


聞いてみるが答えない。

しゃがみ込み拾い上げたものは踏まれてちぎれた四つ葉のクローバーだった。



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