ユグドラシル

□Lapis Lazuli
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ルーク達が去る姿を見送り、その気配が感じれなくなってからようやくアッシュは警戒を解いた。

口元が無意識に笑うのが止められないが、一時の高揚が過ぎれば胸に去来するのは寂しさと切なさだった。

アッシュ自身で望んで選んだ道だ。
敵としてしか存在出来ないとしても、それをアッシュは自らの意志でその関係性を選び取った。
後悔は無い。

横を見れば同じ様に苦々しく思っているで有ろう、シンクの姿が有る。

「…良かったのかあれで?」


声をかければ振り返ったシンクとお互いに仮面ごしに視線がかち合う。
長い付き合いだ、何を考えているかアッシュ、シンク共に手に取る様に分かった。

「…仕方が無いじゃないか。
和平交渉はアイヴィの悲願なんだ。

僕の我が儘でそれを潰す訳にはいかない。」


憮然として応えた以上にシンクの内心は穏やかではないだろう。

イオンを手放した事は彼に取ってかなり不服だった筈だ。

イオンの望む願い。

その願いが彼の身を危険に曝すと知っていながらも、イオンを大切に思うがゆえに聞き入れざるを得ない現状。

そして何より立場の違い故に傍で守る事の出来ない自分に対する腑甲斐なさ。
自分自身に対する苛立ち。


アッシュは溜め息を一つ付いて、彼の配下である部隊に同情すら覚える。
この様子では無意識に当たり散らされるのだろう。

本人はその自覚か無いままで。


「でも、ヴァンは本気だと思う?
あんな荒唐無稽な事。」


一瞬、シンクが何を言ったのかアッシュには理解が出来なかった。
何の事なのか、言われた言葉を反芻してようやくヴァンが計画しているあの事かと思い至った。


「本気だろう、あの男は。」


アッシュは無造作に仮面を外した。
遺跡の中を吹き抜ける風が汗に濡れた髪を舞い上がらせる。


「そのために用意周到に“ルーク・フォン・ファブレ”を誘拐し、俺/複製品を作ったんだ。」


この世界に存在する全ての人間を殺し、複製品にすげ替える。
ただ“預言”を信仰しているからと言うだけの理由で。

“預言”からの脱却。

たとえどんな大義名分を掲げようともそれは“預言”により祖国を滅ぼされた復讐に違いなかった。


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