SS
□同じ手のひらを重ね
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夜空に向かって吐く息は白い。
冷え込みは全てが凍り付いた先日と比べると幾分か落ち着いたのか穏やかだ。
水上の帝都、グランコクマ。
久しぶりにジェイドの用で、ピオニー陛下に呼び出され、訪れた都市はパーティーメンバーに取ってはまたと無い余暇となった。
日中をそれぞれ思い思いに過ごした後、泊まった宿は奮発して個室を取った。
窓辺に椅子を持って来てブランケットに包まり何も映さない空を見上げる。
息を吐けば寒々とした街灯の光にあてられて薄く棚引く息が見えた。
月は見えない。
暗澹とした闇が広がるだけ。
月齢から言えば丁度満月だった筈なのだが、今は星の一欠片すら目にする事は叶わない。
昼間の時点で空は分厚い雨雲に覆われていたから、まあ仕方がないとも言える。
雨は余り好きでは無い。
自分に取って辛過ぎる事が多かったから。
罪と罪悪を突き付けられている様で…。
時間が経つに連れて冷え込みは益々酷くなる。
街灯だけが灯る街並が、その対比に余りに闇が暗すぎて、ぶるりと身震いする。
本能的な恐怖と言えた。
「…もう寝よう。」
誰に聞かせるでもなく呟いて窓を閉めようと伸ばした視線の先、鮮烈な色を見た。
「…アッ、」
名前を呼ぼうとしても、長く冷えた空気に晒された喉は思うように言葉を紡いではくれなかった。
ただ暗い闇の中から現れたその人物の鮮やかな紅に胸が締め付けられる。
傍に来てくれる、それだけで泣きたい位に嬉しかった。
窓の直ぐ側。
手を伸ばせば触れてしまえる位置に居るアッシュは相も変わらず眉間に深い皺を刻んでいた。
変わらない様子が嬉しくて思わず笑ってしまえば益々、不機嫌そうに睨まれた。
「…何が可笑しい?」
憮然とした言葉に何でもないと答えるとアッシュは上がるぞと言って一足飛びに部屋へと入り込んで来た。
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