SS

□同じ手のひらを重ね
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迎え入れれば幾分か水分を含んだふわりと薫る冷たい夜の香り。

夜露に濡れた彼の髪はいつも見るより更に鮮やかで一瞬、目を奪われる。

開け放たれたままの窓も凍るような冷たさも忘れてただ、見入ってしまう。


「…何やってやがる、こんな時間に。」


「……えへへ、」

悪戯を見咎められた童子の様に笑って誤魔化せばアッシュの眉間に不快感を表す皺が刻まれる。

使い古された黒革の手袋を外して触れてくるその手が気持ち良くってされるままに触れられる。

外に居た割りにはアッシュの手は温かい。


「……」

俺の顔に触れながら更にアッシュの機嫌が降下するのが分かった。

何も言わなかったが、不機嫌な雰囲気を重苦しいぐらいに感じる。


ぞわり、と何が背中を這い上がる感覚。

何か言わなくては。
自分は何かしたのかも知れない。



彼の不興を買うような事を…。


一度考え出せば深みに嵌まる。


今の俺にとって、アッシュに嫌われる事が何より怖かった。



「…アッ、」

そう思いながらも気持ちとは裏腹に自分の口はパクパクと無意味に動くだけで言葉を出してはくれない。

名前さえ呼べない。


いよいよ、どうしようかと考え出した俺を余所にアッシュは無造作に開け放たれたままだった窓を閉め、俺の腕を引っ掴み部屋の奥へと引き摺って行く。


「…っ、」


無理矢理座らされたのは暖炉の前に置かれたソファーだった。

咄嗟の事で事態を把握出来て無い混乱した視線を向けると、静かに黙ってろ、と言われた。


おとなしくソファーに居心地悪く座っていると、何やらごそごそと暖炉の前でし始めた。


「……」


アッシュが何事かを呟き、軽く指を、ぱちんと鳴らす。

その途端、薄暗く寒々とした部屋に暖かな橙の光がともった。

緊張が解ける。
寒さに強張っていた身体から自然と力が抜ける。




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