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□夜想響声
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空を覆うのは曇天。

雲は暗く街に陰を落とし、キムラスカ・ランバルディア王国の首都バチカルでは今にも雨が降りだしそうだった。

水を含んだ湿気った匂いがする。
程なくして雨が降るだろう。
時刻はもうそろそろ夕暮れに差し迫ろうかと言う時刻。


バチカルの最上階。
誰もが目を止める荘厳な王城を一顧だにせず立ち去る人物がいた。


血と見紛う深紅の髪。
深い緑柱石の瞳。
黒衣の子爵服に身を纏うのは世界を救った英雄。
アッシュ・フォン・ファブレ。

深紅の髪を翻し青年/アッシュは足早に護衛の共も着けず屋敷へと到る路を辿る。


単独での行動は子爵と言う身分から考えれば感心出来る事では無かったが、長年軍人としての生活してきたアッシュにとっては特に問題では無かった。

危険などざらで有ったし、ヴァン・グランツとのエルドランドでの戦いでは殺すか殺されるかと言う状況を繰り広げて来たのだ。

実力でアッシュに対抗出来る者の数は限られる。

そのため、人目を気にしなくてはならない公の場所以外極力警備は配備されない。

前線へと常に送られ続ける特務師団で師団長まで上り詰めた実力は伊達では無かった。



エルドランドの戦いから時は既に三年を経過しようとしていた。




・・・・・





黒く磨き上げられたブーツが石畳を踏み硬質な音を響かせる。

ぽつりとブーツの爪先に遂に雨が落ちた。


王城からファブレ邸へと到る長くはない道で雨が降り出す。


雨脚の強くなる雨にアッシュの髪は深く色彩を変える。
紅だった髪は更に濃く、黒とも見粉う炎る暗き深紅へ。


上げていた前髪は降りてしまって視界を隠す。
濡れた不快感に思わず眉をしかめた。


早く帰ろう。

そう思ってしまってはたっと気付いた。
帰る場所など無かったはずなのに。

あの場所をいつの間にかそう思えるようになった自分にアッシュは苦笑する。

奪われた結果、自分で全てを捨てた筈だった。

もう帰らないと。
切り捨てた。

今の自分の変化を昔を知る人間が見たらどう言のだろう。


ある者は穏やかになったと言い、昔の同僚なら飼い馴らされたと言のだろう。

そう考えられるほどアッシュの精神は落ち着いていた。

以前からは考えられない程に…。






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