SS

□夜想響声
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結局、アッシュがファブレの屋敷に戻った時には既に濡れ鼠だった。


礼服もブーツも雨を吸ってぐっしょりと身体に纏わり付き重い。

不快感からアッシュは顔をしかめたため眉間に皺が入る。
ルークから止めろ止めろと言われ続けるがそれは癖になってしまっていた。

ルークに眉間を指でぐりぐりと押され皺を伸ばされる羽目になった事は一度や二度ではない。


帰宅を告げ玄関ホールへと入れば迎えに出てきた執事長のラムダスがアッシュの状態を見て眉を撥ね上げた。

ずぶ濡れの状態で風邪でも引いたら事だ。


だがラムダスは特に何も言って来ない。
アッシュが他人に干渉される事が嫌いだと知っているからだ。


ただこれがルークならあれやこれやと世話をやくのだ。
この執事長は。


「入浴の準備をさせますか?」


だが、それでも建前として告げられた言葉をアッシュは手を振って制した。


「湯は構わない。
自室で入らせてもらう。」


ラムダスも分かり切っていた様で深くは言ってこない。


夕食も部屋へと運んで貰う様に頼み玄関ホールから自室へと向かう。


先のエルドランドでの戦いののち奇跡的に帰還する事が出来たルークとアッシュに彼らの両親であるファブレ夫妻は事の他喜んだ。

一度は諦め死地へと送り出した息子達が二年のブランクが有るとは言え無事に戻って来たのだ。

喜ばない筈はなかった。



両親は二人に増えた息子のために部屋の増築までも行っている。

アッシュの部屋はルークの部屋に隣り合う様に造られていた。

アッシュがある程度自炊が出来る様にと望んだため部屋には小さなキッチンと浴室も備え付けられていた。

以前ならアッシュは猛反発しただろう。

それこそ一緒に住むなどしない程に。


だがアッシュはおとなしくすんなりと受け入れた。

彼らの関係は以前を知っている人間からすれば驚く程、良い方向に改善されていた。

それはもう帰還までの間に何があったと問い正したくなる程に。



だが結局、二人の帰還を祝い、増築された部屋は現在余り意味をなしていない。


本当に以前からすれば考えられない事なのだが、二人は二つの部屋を交互に行ったり来たりを繰り返していた。





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