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□君と歩く
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アッシュは目の前に起こっている状態の把握が出来なかった。


目を開けて一番に飛び込んで来たのは濃紺の夜空と金の砂を撒いたかのような無数の星。

どこかで見た宝石の様だと漠然とした意識の下で思った。


止まった呼吸を吸い込んだ瞬間、肺を満たした冷気に思わず咽込む。

まるで赤ん坊が産まれた時に初めて呼吸をした時の様に、肺を満たしていた何かと酸素を含んだ空気が入れ替わる。
それは一呼吸の間に違う場所へと連れて来られた様にも思える感覚。


一頻り咽せてようやく呼吸が落ち着けば一気に周りの事を知覚出来るだけの余裕が生まれる。


頬を撫でる風の冷たさ。
青臭い植物の匂い。
何処からか聞こえる水の流れる音。
僅かに響く潮騒。
頭上にある満月とその月明かりに照らされて僅かに輝きを放つ白い花。

少し開けた草原の様だった。


…ここは何処なんだ?



自問してみても勿論答えは出ない。
アッシュの見覚えの有る場所ではなかった。

どうにか起き上がれば全身の筋肉が強張っていたのか酷く痛む。

辺りを見回して、少し離れた場所に見慣れた色を見つけた。


夜目にも分かる朱色の髪に白い上着。
どうしてか初めて会った時と同じ様に伸びた髪が風に煽られてふわりと舞い上がる。


「…おいっ!」

ぐったりとしている相手に手を伸ばそうとしてアッシュは動きを止めた。

伸ばそうとした手に違和感を感じる。
よくよく見れば長い間、使い込んで手に馴染んでいた筈の手袋は変色を起こしていた。

黒く変色し、酷い異臭が鼻に付く。


錆びた鉄の様な臭いは明らかに血の臭いだった。

よくよく見れば手袋も来ている詠師服も履いているブーツにも酸化して黒く変色した血に染まっていた。

致死量を遥かに越える程の大量の出血痕。


こんな出血をどこで浴びたかと思い出そうとして体にある感覚が思い出された。

記憶が脳裏にフラッシュバックする。


強い痛みと熱さ。
全身を支配する悪寒。

強い眠気。
そして落ちた意識。


それはアッシュ自身が死ぬ記憶だった。




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