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□‘愛してる’は最強呪文
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闘いからおよそ二年
俺達は二人で還って来た

父も母も最初こそは驚いていたけれど
喜んで迎えてくれた

そんな中で
俺達は与えられた役目をこなしていた

アッシュは
国政に関わる公務を

俺は
公務に携わる為に必要な最低限度の義務教育

アッシュは元々の、頭の出来が違うからなのかどうかは分からないが、ブランクは有ったものの、すんなり公務をこなしている。

そして俺はというと…

「はぁ」

手に持っていた羽ペンがぱたりと紙の上に落ちる。

インクが紙に黒い染みを作る。
徐々に広がる染みを見ながら俺の心みたいだなとぼんやりと考えた。

半刻の間、ペンにインクを付けそして勉強は捗らず無為に用紙を汚していた。

黒い染み。
埋められない穴。

理由は分かっている。


している筈だった。

原因は隣にいない
紅の半身

今は何処にいるのか
彼は今、世界中飛び回っている。


感覚で
深い所では常に
繋がっている事は分かる

だけれど
やっぱり
傍に居なければ

寂しい
恋しい
愛しい

想いだけが積み重なって
いつか
駄目になりそうだ


そして
『独り』が耐え切れなくなって抜け出した

王都バチカル
一番見晴らしの良い場所へ

自然に足を向けた
今はもう使われなくなって久しい天空滑車

遮るものの何も無い

世界は様々に色を変える
騒がしい昼が終わり
静寂の夜の帳が降ろされる

その狭間
つかの間
ただ一瞬


太陽が地平線に沈む
緋に染まる世界

空も
大地も
街並も

全てがただ一色で
染め上げられる

胸が溢れる
哀しみではなくて

ただ感情が…
発露する

涙が零れる

ああ
世界はこんなにも美しい

この世界に
この美しい世界に

君とただ生きれる事を
幸せに思う


耳鳴りが
始まりの
訪れを知らせる

次いで来るは
眩暈を伴う
慣れた
喜びさえ感じる
頭痛


感じる事が出来たのは
愛しい人の呼ぶ声

『…ルーク』

曖昧に返事だけを返す

『どこにいる?
 泣いているのか?』

繋がっているから分かる
互いの状況
心配そうな声

アッシュが自分を気にかけている

申し訳ないと思いながら

心のそこで喜んでいる自分がいる

ああでも…

…空が
世界がこんなにも綺麗だなんて
今まで思いもしなかった

アッシュにも見えれば良いのに







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