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□ある雪の降る日
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辺りを包む静寂
無音の世界

俺の周りを
まるで蝶の様に
ひらり
ひらりと舞い降りるは

真白き氷の花
純白の雪

息を吐けば白く
辺りの空気は
身を切る様に冷たい


深く被った外套から零れる
血の様に紅い髪に
白い雪は触れて消える
雪に濡れた髪は
より一層

暗く
鈍く

血の色に光る

それはまるで
血にまみれた両手が
どんなに拭っても
元には戻らない


犯した罪を
見せ付けられている様で

自嘲的に笑った
無意識に零れる

自分はいつから
こんなにも


弱くなったのか…

生きる為に
他人を殺した

その事を
後悔などしていないはずだった。

『鮮血』と字される事を
甘んじて受け入れたのは自分だったではないか…。

それがいつから
いつから

疎ましくなったのか…。


それは
それはきっと

あの『色』を知ってしまったから…。



「…アッシュ!」

嬉しそうに
自分を呼ぶ声がする

振り返れば
見える
雪を踏み分けながら
走り寄って来るのは

かつて憎んでも憎み切れなかった
レプリカ/ルークの姿

その姿は自分と同じ筈であるはずなのに

どこが似ているのか…。


「良かった、やっぱりアッ シュだった 」


走ったためか
寒さのためか
その頬は真っ赤で

まるで子供の様で
思わず笑みが零れる


「…どうした?
 今日は一人なのか?」

辺りを見渡すがいつも過保護なまでに朱に構うあの元使用人の姿も他のメンバーの姿も見えなかった。

「今日は皆、自由行動なん だ 」

だから今はひとりなんだと嬉しそうに笑う。

「…そうか」

言えば殊更に何が嬉しいのか楽しそうに笑う。

その笑顔に満たされる
胸が温かくなる

「どうかしたのか?」


切って
短くなった髪に触れる
軟らかく細い髪は
雪に触れしっとりと
濡れて


「いや、ただ…」


光に当たり
きらきらと
透ける薄さで輝く

自分では持ち得ない色彩

世界の始まりで
終わりの色

さながら
東の空が夜明けに色付くかの様な…。

東雲か曙

朱から金へ
変わる色彩



「 綺麗な色だな 」


気持ちのまま言えば
ルークは驚いた表情をして
更に笑う

同じ音素振動数
完全同位体
違いなど無い筈なのに

こんなにも違う

笑う顔も
身に纏う色さえも…。



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