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□共に生きる理由
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映像はまるで駒送りの様に目に焼き付いた。
振り上げられた白刃。
憎悪を向ける男の顔。
咄嗟に動こうとした兵士。
悲鳴を上げる女性。
そのどれよりも早く剣を抜き放ち、男の急所/首へと吸い込まれる様に白刃は消える。
抜き放つと同時に後ろへと跳べは、今まで自分が立って居た白い石畳へと鮮血が撒き散らされる。
「…がっ!」
もがく様に自分の血へと倒れ伏した男は恨みがましい目をこちらへと向ける。
その口から言葉は出ない。
だだ切られた気管から空気が漏れるだけ。
それでもなぜか理解ってしまった呪怨の言葉。
“…レプリカなど死に絶えてしまえ…!”
声にならない声が確かに聞こえた気がした。
「…あっ…」
喉が渇いている訳では無いが引き攣った様に痛み、声が出ない。
真っ白な頭で必死に状況を把握しようと努めるがままならず更に混乱する。
久々に人を生き物を殺した感触が感覚として手にこびり付いて離れない。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄って来た兵士に声をかけられたが正直、自分が何を話したかなど分からなかった。
今、自分は何をした?
咄嗟にとは言え、殺す必要はあったのか?
生け捕る方法もあったのではないか?
いつまでたっても答えの出ない自問自答。
手の中にある血に濡れた白刃だけが現実に自分が成した事を知らしめていた。
バチカルの空は自分の感情を表すかの様についに泣き出した。
・・・・・
空から、まるでカーテンの様に霧雨が降り続く。
それはまるで優しく慰める様で、俺のした事を嘆くかの様だった。
バチカルの最上階。
人の来ない、見晴らしの良いその場所は密な自分のお気に入りだった。
《独り》になれる場所
最愛の紅/アッシュと一緒に帰還してからと言うもの四六時中自分の周囲には人が絶える事が無かった。
良い意味でも
悪い意味でも
英雄だと
子爵だと
仕事
公務
プライベート
関係など無かった
常に有る人の目
いつだって
頑張って来たけれど
擦り切れそうな神経を
くじけそうになる自分を
休めるため
見つめ直すため
そこは
そのために独りになる場所だった
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