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□残酷な神が支配する世界からの逃走
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まるで失った血液が末端に届かなくなくなったかのようにこの身体から音素は乖離する。

指の先、脚の先。
両肢の先端から細胞を繋ぎ止める、身体を構成する音素は失われる。

それが痛みを伴わない死。
《音素乖離》


緩やかにだが逃れ様も無く追い詰められる確実な終わり。

真綿で首を絞め殺すかの様に訪れる恐怖。

穏やかに殺され続けたのは脆弱な精神。

いつかは麻痺する。
心は摩耗する。
表面張力の最後の砦。

ただの一滴。
溢れ出るそのきっかけを投げ入れられればたやすく精神は破綻をきたす。

危うい均衡。

そして精神の逃走の道としての逃避を選択する。

感じなければいい。
見なければいい。
聞かなければいい。

そうすれば存在は存在として、としてこの精神で在る事が出来る。

最期の瞬間一粒まで。


だがその想いは無惨にも砕け散る。

最愛の存在の消失をもって最悪な形で訪れる。


無意識に
呼んだのは最愛の者の名

訪れたのは
応えるかの様な僅かな温もり

言い知れぬ
絶対的なまでの喪失感

欠けた半身

手放してしまった
断ち切れたのは

精神の繋がり


もう自分は永遠に
満たされない


失ってしまった半身と共に
本当の意味での孤独となった
の傍がの居場所
の存在がの生きている理由


が居ないこの世界は辛い事ばかりで

もう理由が見つからない




さあ
に合いに行こうか?

の名を呼ぶに合うために


「…ねぇ、アッシュ?」





もう
この世界に繋ぎ止める枷は無いのだから









“君に合いに行く”と言う笑う顔はまるで幼い子供の様で―――。




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