不二受長編

□★恋物語(跡不二)
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『親父の贔屓にしてる五つ星ホテルがある。今日は校門に車を付けさせるから、一緒に学校を出るぜ』
「…きみの誕生日なのに、きみに任せていいの?」
不二は話の展開についていくのが精一杯だった。
『誕生日の前に初夜じゃねぇか。エスコートくらいさせろよ』
――初夜…。
その言葉に不二は軽く眼を見開いた。
跡部の噂はよく聞いた。
泣かせた女は数知れず、というやつだ。
跡部にとって、肉体関係などなんでもないことなのだろう。
大人だなと思う反面、不二は自分もそのひとりなのだろうなと、少し切なさを覚えた。
すべての噂を信じるわけではないが、噂では一番短い女は1日で別れたという。
ヤり捨ても同然だった。
不二は少し不安になってきた。
自分にはセックスのテクもなければ、跡部の好きな『女』でもない。
初夜のベッドで興醒めされて捨てられたらどうしよう。
不二がそんなことを考えていると、跡部がその沈黙をなんと取ったのか。
『俺ン家のほうがいいか? ホテルには劣るが、シェフもいるし静かな部屋もあるぜ』
跡部がよほど気に入った人間でなければ家に上げないということを不二は知らなかった。
不二は元から特別扱いなのだ。
「お邪魔してもいいのかい?」
ホテルより金がかからないだろうと思い、不二は跡部の家を選択した。
『明日、楽しみにしてるぜ』
低く艶めいた跡部の声を抱いて、不二はうっとりと眠りに就いた。
 

「で、どうやったん?」
朝1番で忍足が、跡部の席にやってくる。
「あン?」
「とぼけたってアカンで。不二のことや」
結果報告をしろ、と迫ってくる忍足に、にやりと跡部は笑った。
「その顔は」
「ああ」
可能性は五分五分だと踏んでいた忍足は、うまくいったという跡部の返事に、一瞬惚けた顔をした。
「そら良かったなあ。俺はてっきり…」
そこまで言って忍足は言葉を止める。
「てっきり、なンだよ」
忍足が頭を掻いた。
「いやー…てっきり、不二はあの手塚とデキてる思うてたわ」
跡部の眼が据わる。
「アーン? 手塚だと?」
跡部と手塚はライバルだ。
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