不二受長編

□★1と2(塚不二)
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「だから『抱いて』って言えないってわけか?」
至近距離で跡部が問うた。
「いや…お尻が傷だらけで」
「なにィ?」
跡部の形相が変わる。
「馬鹿。尻出せ、尻」
クローゼットから傷薬を持ってくると、跡部は下着ごと不二のズボンを下ろさせた。
「セックスのとき以外でお尻触られるのって、熱が出てきみに座薬を刺されたとき以来だね」
「アーン? そうだったか。…すげぇ傷じゃねぇか。本当に合意の上か?」
「手塚は容赦ないからね」
そんな男と付き合ってるのになまじ不二の気持ちを知っていて別れろと言えない分、跡部は鬱々とした気分だった。
「こんな奴やめて俺にしとけば?」
「いいかもね」
軽口を叩き合って傷口に薬を塗り込んでいく。
「マジに考えとけよ」
「はは」
不二は跡部の気持ちを知らない。
知っていて知らないふりをしているのかもしれない。
不二を癒す存在。
それは、跡部が不二に惚れていては成り立たない関係だからだ。
「痛い…」
「この傷じゃあな。我慢してろよ…」
そういえば、と不二が呟く。
「きみ、首にキスマークつけたでしょう。手塚に怒られちゃった」
「あー…。あれ」
ついつけてしまったものだ。
「もしかして叩かれたのってそのせいか?」
「まあね」
「…悪ィ」
旦那にバレた情夫のような状態に、跡部はうめいた。


その日、不二はやたらと従順だった。
「……」
この前ひどくしたのがよほど効いたのか、手塚は謝罪の言葉を何度か口にしかけたが、うまくいかずその度に黙る。
「…不二」
「……なに」
口腔内に手塚の男根を含んだまま、不二は問うた。
「いや……」
「誕生日」
唐突に不二が言った。
「おめでとう。プレゼントはなにも用意してないけど」
手塚が不二の髪をくしゃりと撫でる。
「別に期待していない。………おまえでいい」
おまえがいれば。
「…ぼく?」
クスリと不二が笑う。
「変なの。いつも公衆便所とか言って馬鹿にしてるくせに」
「……」
手塚は越えられない溝に気づいた。
当たり前だ。
これまで散々そうしてきたのは手塚なのだから。
手塚は不器用すぎた。
「不二」
「だから、なに」
おとなしく髪を撫でられていた不二が、欝陶しげに返す。
「……その」
「うん」
手塚は俊巡した後。
「大丈夫だったか」
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