不二受長編

□★男嫁(跡不二)SS
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 夏。京都の避暑地。
 帝久家の私有地が広がる湖畔の別荘に跡部と不二は来ていた。
 今回の旅は夫婦水入らずで、束の間の夏のひとときを愉しむものである。
 平安時代から改築に改築を重ねた由緒ある日本家屋で、ふたりは静かな夏の時間を過ごしていた。


 うららかな午後の日差しが、木々の合間に降り注ぐ。
 涼しい風の吹く湖の木陰で、不二は水浴びをしていた。
 白い薄衣を纏って、爽やかな水音を立てて水と遊ぶ。
 透明な湖の水から飛び出した雫たちは軽やかに水面を打ち、波紋を作っていた。
 最愛の夫に愛されて美しく花開いている不二の姿は、神話に出てくるどんな神々よりも輝きを放っていた。
「……」
 昨夜も跡部に愛された、真新しい紅い印が肌に咲いていた。
 不二はその華をそっと指先で撫でると、嬉しげに眼を細めた。
 そこに、ふいに水音がして『彼』がやってきた。
 不二は花が綻ぶような笑みを浮かべ、彼を迎えた。
 そんな不二を緩やかに抱き締めて、戯れるようにその細く白い首筋に口付けたのは、跡部だった。
 不二は跡部の腕の中で幸せそうに眼を細めた。
 不二の纏った白い薄衣を、跡部の手がゆっくりとなぞった。
 背から腰、大腿。
「ふふ」
 不二が悪戯げに笑った。
 ぱしゃりと音がして、幾つかの飛沫が跡部を襲った。
「冷てえ」
 言った跡部が、不二に水をかけ返した。
 声を立てて笑った不二が、さらに跡部に水をかける。
 ひとしきり水遊びを愉しんだふたりは、寄り添って水の中を歩き、岸に上がった。


 今は暑中見舞いの季節だった。
 夜。
 蚊帳の中で不二が葉書をしたためる。

裕太へ
 この間は忙しい中来てくれて有り難う。
 今度またホームパーティに招待するよ。
 姉さんたちにも宜しくね。


 不二は最近、写真を撮るようになった。
 被写体は主に静物や景色だ。
 跡部は一夏を過ごすこの別荘に、不二のために暗室を造った。
「…おまえが撮った湖の写真か。綺麗だな。朝もやがかかってて幻想的だ」
 不二の葉書の裏側を見た跡部が、柔らかな笑みを浮かべて言う。
 控えめに微笑った不二が、なにかに気づいて手を伸ばした。
 だが、その一歩前で『それ』は跡部の手にさらわれてしまった。
「――この写真」
 それは、不二と愛し合った後で悠然と安らかに眠る、跡部の寝顔だった。
 

「…跡部…凄く熱い」
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