不二受長編

□★恋物語(跡不二)
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その朝、観月は跡部に懇願していた。
「自分はやめて仁王にしてくれ」と。
半泣きである。観月にしては珍しい。
「アーン? 次の保健委員のことか? もう大分日が遅れてンだよ。オメーでいいじゃねえか」
観月は跡部のクラスメートだった。
いつもはニヒルな彼がここまで下手に出ることはめったにない。
「ち、違っ……」
観月の言葉を最後まで聞かず、クラス委員長の跡部は悠然と教室を出た。
ちょうど廊下の向こうから、跡部の想い人・不二周助がやってくる。
「……」
捜す手間が省けた、と跡部はポケットに手を突っ込んで彼に向かっていった。

「不二」

不二は、外の秋雨の様子を見ながら自分の教室に入るところだった。
「跡部。おはよう」
にこりと不二が微笑う。
「おう」
跡部と不二は隣のクラスだった。
5組と6組なので、体育は合同だ。
跡部はポケットからごそごそと携帯電話を取り出した。
「ん。持ってろ」
「?」
首を傾げながらも不二は差し出されたそれを受け取る。
そのまま跡部は不二に背を向けて教室に戻ってしまった。
「……」
一体…、と不二が携帯を見下ろす。
「不二。どうした?」
教室の入口で立ち止まっていた不二に、登校してきた手塚が問い掛ける。
「なんでもない」
跡部の携帯をポケットにしまって、不二は手塚を教室に促した。



「なんや。機嫌ええなあ、朝から」
缶コーヒーを飲みながら、忍足が跡部の前の席に座る。
「あン?」
「不二か?」
跡部の機嫌の良いときは、大抵不二絡みと相場が決まっている。
「まあな」
「今度は、なしたん?」
忍足がにやにやと問い掛けた。
「不二に俺の携帯を渡したンだよ」
「はあ?」
忍足が間の抜けた声を出す。
「俺様は今日、不二に告白する」
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