不二受短編2

□不二的日常シリーズ
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『不二的夏のひと息』



 午後二時に、部活が終わって帰ってきた。
 夏休みの午後。



 不二は家に入って、リビングのソファの脇にテニスバッグを置く。
 シャツの襟首のボタンを無造作にさらにふたつ外すと、不二はぱたぱたとそこに空気を入れた。
 気温、三十二度。
 今日も真夏日である。
 夕方から英二たちと約束しているお祭りには、まだ時間があった。
「……」
 不二は冷蔵庫を開けると、作り置きの麦茶のボトルを取った。
 キッチンでガラスのコップに並々に注ぐと、涼しげな茶色がかった金色の色合いが目を楽しませた。
 不二はボトルを冷蔵庫に仕舞い、ダイニングのテーブルにグラスを持っていく。
 途中でひとつあくびが漏れた。
 昨夜、宿題が捗って夜更かしをしたことを思い出す。
 テーブルに着いてグラスを置き、不二は窓を開けて戻ってきた。
 夏の音がする。
 木の葉のざわめき。
 飛行機の音。
 蝉の鳴き声。
 空気の流れの音を聴きながら、不二は椅子に座って麦茶を飲んだ。
 ほろ苦い茶葉の味が口内に広がる。
 冷えた茶のグラスがじんわりと汗をかいていくのを、穏やかな気持ちで不二は見つめていた。
 蒸し暑い、夏の空気の中。
 どこかで鳥の鳴き声がする。
 しばらく汗をかいたグラスの光り加減を見ていた不二は、うとうとと腕を組みながら目を閉じていった。

 夏のざわめき。
 夏の声。

 傍らにはひとつ、ゆるりとぬるくなっていく麦茶のグラス。




Fin.
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