不二受短編2

□★夏夜の寝物語集
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【リョ不二】


裸でベッドに潜る感触など、知らないと。嘘ぶく彼を、少年が睨んだ。
「今夜は暑いね」
体に残る情痕は、リョーマがつけたものではない。
「また、あの人?」
絡みついた細腕に、爪を立てて。
「痛いってば…」
擦り寄る不二の髪をつかんで、噛みついたのは唇。
「…したい?」
「やらせてくれるんでしょ」
「まだ、やる気」
全身から力を抜いた不二が、腕の中。
「手加減してね」
「どうかな」
夏の宵に浮かれた外の騒音も、遠く。今夜もまた。夜に棲む男たちの、秘め事が始まる。


一時の肌に何をも委ねて。交わす睦言も、月の下だけなら。
──あんなに、太陽の光りの中で、あんたに焦がれることもなかった。
「……越前…」
他人のものに、手を出した代償。
軽く触れることさえ叶わない。あの男が、見ている。
「先輩。…俺、彼女作ることに──ッ…」
噛みつかれた唇から、血が出たとして。
関係をもったままいつまでも慣れ合っているわけにはいかない。
不二は、リョーマには危険過ぎる。
「あっちだけにしとけばいーのに」
煌めく星が、果敢無く。
「そうしようかな…」

月夜のゆるい魔力も、一夜に終わるもの。
「あーあ。俺、弄ばれちゃった」
人聞きの悪い台詞で脇の下に忍びこむリョーマだ。その頭を、不二が柔らかく絡めとる。
「ぼく、踏んだり蹴ったりだなあ」
「…なに?」
別れを呟く声が、掠れて耳に届くのが。
「ひとつだけ聞かせて。…あんた。俺のこと、どれくらいで忘れられる?」
卑怯だと。近づいたリョーマの顔が、不二の視界を侵す。
「だめ」
小さく不二が笑った。
「ケチ」
今夜は隙間もないくらいに、肌を合わせて。
「越前。…好きだよ」
「厭だなあ。今さらじゃん」
笑い合う声が重なれば、後は言葉を介さない心理戦。
幾度も。幾度も、繋がる。
汗に濡れた腕が、不二の肌を優しく侵す度に。
不二は眼をそらしたがった。時おり眉をひそめては、リョーマの肩に爪を立てる。
不二の頬に伝う汗が、目尻を濡らしているのを知らないふりで。リョーマは何度も口づけた。
不二は優しいキスが好きだった。
宙をさまよう形良い手が。辿りついた少年のしなやかな背に、…縋りつく。

──諦めた純恋など、夏の月に明け渡してやると。
そんなことを言いながら、リョーマは不二を欲しがった。
許してと、小さなうわ言。
花が枯れるごとく、恋の残り香も残骸の姿でまだそこに。
「越前」
気怠い体でリョーマの上に身を乗り換えた不二が、その両耳を包む。
優しげな笑みが、いつもの不二。

『手塚と別れたんだ』

音のない告白は、静寂に熔け消える。
後には、甘やかな口づけが。
「朝まで…抱いて」
最後のわがままだと、不二が囁いた。
「時計、止めちゃってもいい?」

秘めやかに優しく、月夜の接吻。


fin.


2003/7/28-2003/8/3
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