不二受短編2

□★夏夜の寝物語集
3ページ/3ページ

【裕周】


──弟が初めて、抱いてくれたのは。
去年の初夏。大雨の夜だった。

『…兄貴。英二さんに、掘らせてんの?』
不埒な遊びの現場を見られてしまった多少のばつの悪さに、周助は開き直った微笑みを乗せて。
『信じらんねえ! ホモじゃん!?』
さんざん罵った裕太を、上眼遣いに。
『──それで?』
どうにでもなれと、よけいに挑発してみた。それは周助らしくも。
『そんなにヤられたいなら、俺が掘ってやるよ』
自暴自棄のまま簡単に導かれる弟に、後ろめたさを感じつつ。

押し倒されて。

…脱がされて。

脚を、開かされて。

そのあまりに青い精を、あの日、周助は絶望にも似た幸福の中で受け止めた。


今夜も。夜更けの静寂は暗く。
「…裕太…」
小さく舌に転がす名前。呼んでも返事が返ることはないと。
「──ごめんね」
周助は思っていた。
「なんだよ…?」
不機嫌な声が、隣で眠っていたはずの少年から。
「変なこと考えてないで、寝ろよ…」
こんな風に抱き寄せられたのは、初めてで。
「……っ…」
一瞬震えた裸の肩を、裕太が渋面で撫でた。
「おい…。俺、そんなに薄情だった?」
この一年。
二人の『ベッド』に、愛情の言葉は皆無。
ふるふると首を振る周助が、しっかり眼を閉じているから。
「…泣きそうじゃねえかよ」
裕太は思った。

小学校の頃から片思いだったなんて。
今更すぎて恥ずかしいんだけどなぁ。


fin.



2003/7/27
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ