□忍足侑士の決断
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「忍足!」
普段あまり騒ぐ事のない宍戸が息を切らして俺のクラスに駆け込んできた。
時刻は12時半。丁度昼休みが始まったところだ。

「忍足…大変だ…長太郎が、長太郎が光ってるんだ!!」
「……………はぁ?!」

顔を真っ青にして馬鹿みたいに真面目に告げられた言葉に、思わず声が裏がえってしまった。

ついに宍戸の頭にまで鳳の春が侵略してきたか。突然のセリフに若干、いやかなり引きつつも次の言葉を待っていると宍戸の焦った声が続く。
「本当だ!嘘とか冗談じゃなくて…とっ、とにかく来てくれ!」
返事も待たずに俺の腕をひっつかむと、有り得ないスピードで廊下を駆け抜ける。これぞ宍戸ダッシュだ。
つれていかれた先にはいつものように女子に囲まれた長太郎がいた。

「なあ、見えるだろ?長太郎のまわり…」
そんなこと言われたって長太郎の周囲には目をハートにした女の子たちしか見えない。
何も言わないでいると、「見えねぇのか?!光ってるだろ、直視できないくらい」
とじれたような声が続く。
「…」
俺は今、心の底から宍戸の頭を心配している。元々頭の弱い奴だったが一体なぜ。何かの冗談だろうか。俺には鳳のまわりに光なんて全く見えないのだ。

と、こちらに気づいたらしい鳳が慌てたように近寄ってきた。
「おおお忍足先輩、何やってるんすかーっ!!!」
「は?」
「宍戸さんから離れて下さい!!」
むしろくっつかれついるのは俺なのだが、鳳の目には俺が宍戸を抱き寄せてるようにみえるみたいだ。なんて都合のいい目。
俺と宍戸の間に割って入り、力の限り俺を弾き飛ばすと、代わりに自分が宍戸を抱きしめた。
「な、長太郎?!」
「大丈夫ですか宍戸さん。あの変態丸眼鏡に何か変なことされませんでした?」
「変態は余計や!」
「忍足先輩なんて雑巾眼鏡で十分です。」
「変わっとる変わっとる!雑巾は堪忍して!」
「じゃあ雑巾って呼ばせていただきます。」
「ちょwwwwwwwww」
と、俺のキレのいいツッコミ(自己満足)が炸裂している間ずっと黙りこくっていた宍戸が、突然「忍足!」と叫んだ。

宍戸のでっかい声に、鳳の肩が大袈裟なくらい揺れる。
「行くぞ!」
鳳の腕のなかから無理やり抜けてきて、再び俺の腕を掴んだ宍戸は走り出す。またしても俺の返事を聞かないまま。

「宍戸さあ〜ん」
鳳の悲痛な叫びが聞こえたような気がしたが軽くスルーし、そのまま引きずられるようにしてその場を去った。
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