イナイレ

□士郎とアツヤ
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一人で二人。
二人で完璧。

――だけど。

二人で一人には、なれない。

「ねえアツヤ」

もしもあの雪崩で生き残っている方がアツヤだったら――

「アツヤも、僕を作り出していたかな」

(士郎は、何て答えてもらいたいんだ?)

「・・・・・・解らない」

(じゃあ、どうして突然んなこと訊きやがる)

「・・・・・・」

アツヤは悲しむかもしれないけど、その悲しみを乗り越えられる。
だからきっと、僕を作らない。

「羨ましいな」

僕も、強くなりたい。
アツヤのように。

そしてみんなのためにも、完璧になるんだ。

「そう、完璧。でないと、みんなみんな死んじゃうんだ」


***


昔はアツヤの存在が恐怖なしに嬉しかったのに。
いつから――こんなことになったのだろう。

(いつから?解ってることを疑問にするのは、否定してもらいたいからか?
なら、優しい俺様が期待に応えて答えてやんよ。
・・・・・・士郎、みんなが俺を求めるようになってから――なんかじゃあないとは思うぜ?ひゃははははっ!)

アツヤの笑い声が脳に障る。僕は衝動的に耳を塞いだ。意味がないことは、解っているのに。

「僕は一人で吹雪士郎。
僕は一人で吹雪士郎。
僕は一人で吹雪士郎。
僕は――」

(はん、『僕は一人で吹雪士郎』よく言うぜ)

「うるさいっ、黙れっ」

(つれねえなー。たった二人の兄弟なんだぜ?仲良くしようぜ、昔みたいにさ)

「違うっ、お前は僕の弟なんかじゃない、僕の作り出した偽物だ!」

(そう。だからお前の意思で俺は消せる。でも消せない)

「どうして、」

(優しいからさ)

にやにやと笑って、アツヤは続ける。

(俺は士郎なしでは存在できない。士郎が俺を消したら、アツヤはこの世界から完全に消える。だから、お前は俺を消せない。
そのことを、知っているから)

「う、うう」

惨めに溢れる汚咽。
鼻の奥がつんとなって、上手く口も動かせない。

僕は、弱いから泣いてしまうのかな。

(無理すんなって。士郎のことは俺が一番よく解ってんだからよ。
俺に体も心も全部ゆだねろ。楽になれるぜ?)

そんなこと。
しない。

(ほらほら、鏡見てみ。顔が真っ青だぜ?まあ、元から白い方だけどよ。
なあ、悪いこと言わねえから、少し休めよ)

僕はアツヤが大好きだ。可愛い僕の弟だ。
だけど、僕は僕を譲れない。

「次の試合では、僕がシュートを打つんだ」

これは宣言だ。
僕は座りこんでいた床から立ち上がり、心の中のアツヤに言う。

(な?真っ青だろ?)

「え?」

ちぐはぐな返しに、僕はつい反射的に鏡を見てしまった。

「え?」

鏡の中に、僕がいない。いない。
これは、この顔はアツヤの顔だ。

「うわあああああ!!」

(人は死んで、皆に忘れられることで二度死ぬって言うけどよ、なかなかどうして、俺はその逆もアリなんじゃねーかなって思うんだ。
――皆に忘れられてから、死ぬ。それって怖いね、士郎)

「僕のことか。皆に必要とされてないって言いたいのか」

(さあね)

アツヤは言う。
げらげらと笑って。
心の底から、愉しそうに。

と、

(心の底から、だって?)

アツヤは笑うのを止めて、きょとんとした顔で僕を凝視する。

(何を今更。当たり前だろ?俺は心の底そのものなんだから)


終わり

アツヤはわざと悪ぶって、何か大切なことを士郎に気付かせるような子だと思って、でもこれだけだと本当にただの嫌なやつにしか見えない\(^o^)/
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