イナイレ
□士郎とアツヤ
1ページ/1ページ
一人で二人。
二人で完璧。
――だけど。
二人で一人には、なれない。
「ねえアツヤ」
もしもあの雪崩で生き残っている方がアツヤだったら――
「アツヤも、僕を作り出していたかな」
(士郎は、何て答えてもらいたいんだ?)
「・・・・・・解らない」
(じゃあ、どうして突然んなこと訊きやがる)
「・・・・・・」
アツヤは悲しむかもしれないけど、その悲しみを乗り越えられる。
だからきっと、僕を作らない。
「羨ましいな」
僕も、強くなりたい。
アツヤのように。
そしてみんなのためにも、完璧になるんだ。
「そう、完璧。でないと、みんなみんな死んじゃうんだ」
***
昔はアツヤの存在が恐怖なしに嬉しかったのに。
いつから――こんなことになったのだろう。
(いつから?解ってることを疑問にするのは、否定してもらいたいからか?
なら、優しい俺様が期待に応えて答えてやんよ。
・・・・・・士郎、みんなが俺を求めるようになってから――なんかじゃあないとは思うぜ?ひゃははははっ!)
アツヤの笑い声が脳に障る。僕は衝動的に耳を塞いだ。意味がないことは、解っているのに。
「僕は一人で吹雪士郎。
僕は一人で吹雪士郎。
僕は一人で吹雪士郎。
僕は――」
(はん、『僕は一人で吹雪士郎』よく言うぜ)
「うるさいっ、黙れっ」
(つれねえなー。たった二人の兄弟なんだぜ?仲良くしようぜ、昔みたいにさ)
「違うっ、お前は僕の弟なんかじゃない、僕の作り出した偽物だ!」
(そう。だからお前の意思で俺は消せる。でも消せない)
「どうして、」
(優しいからさ)
にやにやと笑って、アツヤは続ける。
(俺は士郎なしでは存在できない。士郎が俺を消したら、アツヤはこの世界から完全に消える。だから、お前は俺を消せない。
そのことを、知っているから)
「う、うう」
惨めに溢れる汚咽。
鼻の奥がつんとなって、上手く口も動かせない。
僕は、弱いから泣いてしまうのかな。
(無理すんなって。士郎のことは俺が一番よく解ってんだからよ。
俺に体も心も全部ゆだねろ。楽になれるぜ?)
そんなこと。
しない。
(ほらほら、鏡見てみ。顔が真っ青だぜ?まあ、元から白い方だけどよ。
なあ、悪いこと言わねえから、少し休めよ)
僕はアツヤが大好きだ。可愛い僕の弟だ。
だけど、僕は僕を譲れない。
「次の試合では、僕がシュートを打つんだ」
これは宣言だ。
僕は座りこんでいた床から立ち上がり、心の中のアツヤに言う。
(な?真っ青だろ?)
「え?」
ちぐはぐな返しに、僕はつい反射的に鏡を見てしまった。
「え?」
鏡の中に、僕がいない。いない。
これは、この顔はアツヤの顔だ。
「うわあああああ!!」
(人は死んで、皆に忘れられることで二度死ぬって言うけどよ、なかなかどうして、俺はその逆もアリなんじゃねーかなって思うんだ。
――皆に忘れられてから、死ぬ。それって怖いね、士郎)
「僕のことか。皆に必要とされてないって言いたいのか」
(さあね)
アツヤは言う。
げらげらと笑って。
心の底から、愉しそうに。
と、
(心の底から、だって?)
アツヤは笑うのを止めて、きょとんとした顔で僕を凝視する。
(何を今更。当たり前だろ?俺は心の底そのものなんだから)
終わり
アツヤはわざと悪ぶって、何か大切なことを士郎に気付かせるような子だと思って、でもこれだけだと本当にただの嫌なやつにしか見えない\(^o^)/
.