イナイレ

□ボーダーラインの向こう側
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甘えるように、試してる。
僕と君とのボーダーライン。

***

就寝時。
南沢の布団がもぞもぞと波打ったかと思うと――波は隣で眠る三国の布団へと移っていった。

「ん・・・・・・?」

まだ眠っていなかった三国は、仰向けのまま首だけを横に動かし、

「・・・・・・南沢・・・・・・?」

と、目の前にいる人物の名を、《なぜそこにいるのか?》という疑問として言い淀んだ。

「狭いな、もうちょっとそっち詰めろよ」

だが。
三国の不思議そうにしている顔を無視し、南沢は強引に布団に潜り込んでくる。
三国はその真意が分からず、

「・・・・・・お前、布団を間違えているぞ?」

と、南沢を見つめて言った。

「うるさい」

南沢は小声だが、「こっち見んな、背中向けてろ」
と、はっきりとした口調で命令を言い渡す。
となると、寝惚けているわけでなさそうだ。

「・・・・・・まったく、一体何なんだ?」

南沢がこうしたよく解らないわがままを言うのは、何も初めてではない。
ましてや、承諾してしまうのも初めてではない。

三国はやれやれとため息を吐き、そして言われた通り、背を向けてやることにした。

南沢はその背を見、思う。

(三国は、いつだってそうだ)

だだっこみたいな甘えも。

王様みたいな無理難題も。

三国は受け入れ、受け止めてしまう。
疑いも危機感もなく、信頼だけを持って。
そしてそれは、自分に対してだけではなく、誰に対してでもだ。

(・・・・・・三国は、仲間には甘い)

南沢は――
三国のそこが好きで。
だけど、そこがムカつきもして。

(いや、今はそんなことより)

南沢は当初の目的を果たすため、

「なあ」と、再び三国に話しかける。

「俺、前に猫飼ってるって言ったじゃん?」

「・・・・・・猫?」

そうだったか?と、三国は眉を寄せ、フル回転で記憶を探る。
しかし、どんなに思い出そうとしても、

「・・・・・・すまない、覚えていない・・・・・・」

正直者の三国は、素直に白状した。
しかし、記憶になくて当然だ。南沢は猫の話などしたことはないのだから。

なのに。

「ひっでーなー三国。俺の話、覚えてないんだ。ってことは、俺のことなんて、どうだっていいんだ?」

と、南沢は鬼の首を取ったように責め立てる。

「す、すまん・・・・・・」

悪いことなどしていないのに、三国は本気でうなだれ反省をする。
南沢には三国の後ろ姿しか見えないが、今、三国がどんな顔をしているのかは、ありありと想像できた。

「――ま、別にいいけどよ」

そして南沢は満足気に微笑み、話を続ける。

「それでな三国、俺は寝るとき、いつもその猫を抱いてるんだ。
そしたら俺は、何かぬくい物を抱いてないと、眠れない体質になっちまったてわけ」

そこまで言って、手を伸ばす。

「つまり、お前を抱かせろってこと」

「っ!?」

三国の返事を待たず、南沢は無理矢理三国の腕の下から手を回し、腹の辺りで一結び。

「・・・・・・ったく、しょうがない奴だな・・・・・・」

三国のあきらめが早いのは、南沢には何を言っても無駄だと解っているから。
この二年間ちょっとで、身を持って学んだことだ。

「しかし、こんなことで寝られるのか?」

おとなしく抱かれる三国に、南沢はぎゅうーと、力を強くする。

「抱き心地が悪いから、眠るのにはしばらくかかりそうだ。猫ならすぐ寝れるのに」

「はは、そりゃ悪かったな」

南沢の悪態に、苦笑気味で返す三国。
その抵抗しなさ過ぎる態度が、逆に酌に触る。
拒否して拒絶して優しくなんかしないで突き放してくれれば、諦めもつくのに。

(・・・・・・こっちの気も知らないで)

「三国の体は、もふりがいのない体だな」

言って、南沢は。

(・・・・・・抱き締めるだけのつもりだったけど、なんかムカつくから――やめた)

結んでいた手をほどき、服の内側へと侵入させた。

「っっ!?何するんだ、くすぐったいだろ・・・・・・?」

逃げるように腰を泳がす三国に対し、南沢は手を止めることなく腹の辺りを撫で続ける。

「男同士なんだから、そんな照れなくてもいいだろ?
それとも――三国って男もアリだったりすんの?」

「そんなわけないだろ!」

「ふーん」

南沢は不機嫌そうに、両手を三国の胸へと這わせる。

「俺だってお前みたいな貧乳より、巨乳の姉ちゃん抱いてたいよ」

「んっ・・・・・・」

くにくにと乳輪や乳首をいじくる南沢の手。
明らかに今までとは違う触り方に、三国は思わず声を出してしまいそうになる。

「ふざけるのはよせ・・・・・・!!」

「三国ってオナニーすんの?全然想像できないんだけど」

「・・・・・・なっ、何を言っているんだ!?」

「あ。乳首、立ってきた」

「・・・・・・っ、ちがっ!」

まだ中学生の三国。
セクハラへの対処の仕方など解るわけもない。
無理矢理手を振り払おうともするが、南沢は退いてくれない。

「本当に、やめないかっ!大声を出すぞ?」

「出せば?」

南沢は平然と言い放ち、左手は乳首をいじったまま、右手だけを三国の下半身に忍ばせる。

「んぅく・・・・・・」

ぞくりとした快感。
三国は足を擦らせ、甘い息を吐いた。

「やめっろ・・・・・・」

「皆を起こして助けを呼べば?俺は冗談で触ったら、三国が勃起したって言うだけのことだし」

「南沢・・・・・・!!」

南沢の言う通り、三国のペニスは熱くなり、刺激を求めひくついている。

もしも今この状況がばれたのならば――恥ずかしい思いをするのは、確実に三国の方だ。

「・・・・・・どうして、こんなことをするんだ・・・・・・」

三国は涙をうっすらと浮かべて言った。

「俺のことをからかって、そんなに楽しいのか!?」

男に、それも級友に良いように体を持て遊ばれ、しまいには勃起までしてしまった三国。プライドはずたずたである。

そんな三国の問いに。

南沢は、まるで今のサッカーみたいだなと、自嘲気味に笑った。
相手の気持ちを無視した、ラフプレイだ。

そして、

「楽しくねえよ」

と、吐き捨てるように言って、手を離した。

「じゃ、おやすみ」

「おい――」

南沢は何事もなかったように自分の布団へと戻っていった。
あとに残された三国は、

「悪ふざけにもほどがあるだろ・・・・・・」

と、狐につままれたような顔で、呟いた。


終わり

***

あとがき

三国さんはここまでやられても南沢さんの気持ちに気付かないという。

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