ショートストーリー部屋

□記憶の空
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僕の名前は高倉純一と言う…らしい…。
今、僕は記憶喪失で今までの記憶がまったく無い。

これは病院に来た僕の親から聞いた話である。もちろん目を覚ました時は親だとは気付かなかった。
正直、今も実感が無い……


僕は一週間前、彼女と二人で山にピクニックに行ったと言う。
ところが彼女がかぶっていた麦わら帽子が風に飛ばされ、崖の縁に生えていた木の枝に引っ掛かってしまった。

その麦わら帽子を僕が取ろうとした時、枝が折れ、木の途中に宙吊りになってしまったらしい。

彼女は助けを求めながら、今にも折れて落ちそうな僕を必死に助けようとした。
彼女の叫び声を聞いて駆け付けた人が着くか着かないかの瞬間、木の枝が折れて僕と彼女は崖の下に一緒に落ちた……


崖に落ちてから三日後、僕は目を覚ました。
頭を強く打った事による記憶喪失の他には打撲と擦り傷があったものの命には別状ないとの事。


問題は……彼女の方だ…。
彼女は意識不明の重体……
いつ呼吸停止になってもおかしくない状態だと言う…。

そのような状態の中、目に涙をうかべ、かすれる様な小さな声で彼女は僕の名前をうわごとでつぶやいていた。

そんな彼女を僕は思い出せない………


 彼女との楽しい日々……

  彼女の笑顔……

そして、彼女の名前すらも……。
僕の中から、彼女のすべての記憶が消えている。
確かに親に彼女の名前を聞いて知っているが……
しかし、それは知っている内に入らないっ。
心の底から彼女の名前を呼びたい……。

  「真奈」と……。

彼女の名前は桜井真奈。
そんな彼女…真奈の顔を見ていると記憶が無いのに次から次へと涙がこぼれ落ちる……。
まるで体は真奈の事を悲しんでいるかの様に……

今の僕に出来る事は、真奈のそばに居てやる事ぐらいしかない。

医師には僕も安静にして休む様に言われたが、何故だかどうしても真奈のそばから離れなかった。

病院には真奈の両親も来ており、記憶が無いとはゆえ、真奈の両親には申し訳なく思っていた。
だが、そんな僕に対し、真奈の両親は温かく接してくれた。

悲しい思いで辛いのは真奈の両親も一緒なのに……。
こんなに優しい両親なんだから、真奈も…とても優しいんだろうな……。
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