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□俺はもう駄目かも知んねえな。
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青天の霹靂。今日もまた、池袋へナイフ片手にあいつが姿を現した。
「シズちゃーん。鬼サンこちら、手の鳴る方へーなんてね!へいへいへーい」
うわ…。あいつ頭大丈夫か?
つかナイフ振り回しながら歩行者の邪魔すんじゃねえ。
ったく…毎度 毎度、懲りねえやつだな…。
煙草をふかしながら近くにあった道路標識に手を掛ける。

−いや、ちょっと待て。落ち着け俺。
道路標識を引っこ抜く手をさげ、大きく息を吐く。
そういや、二時間前−


二時間前、某ハンバーガーショップ


今日の昼はここでいいか。
なんて、適当に立ち寄った店。
適当に注文して、そこらの席に体を預け、一服しようと煙草に火をつけた時、見たことのある顔が目に入った。
来良の制服。
確か金髪君は紀田正臣だったか。
んでもう一人は…誰だっけ?
忘れた。

「…で、ホントもう、昼も夜も一人で歩くの怖くてさ…」
「うんうん、そうか。向こうの顔とかわかんねえの?」
「うん…。紀田君、どうしたらいい?」

どうやら深刻そうな顔をしている。
最近物騒だからな。
会話からするとあれか、誰かに付け回されてんのか。
学生君も大変だ。

「ダブルチーズバーガーセットになります。どうぞごゆっくり」
その声に顔を上げると、オボンを持った店員の姿。もう出来たのか。早いな。
俺はさっそく届いた注文の品に手をかけながら、遠目で二人を眺めていた。

「んーっ、ひとつだけ言えることがある」
考え抜いた先に見つけた答えなのか、難しそうな表情で紀田は口を開き、傍らの少年の肩をポンとひとつ叩く。
「紀田君…?」
「帝人、お前は嫌いの反対はなんだと思う」
…一体なんの話しをしようとしてんだ?
俺の疑問など関係なく二人の会話は進む。
「嫌いの反対…は、好き?」
当たり前の答えに紀田はうんうんと頷く。
そして「そうだ」と一言。
「じゃあ、好きの反対はなんだ」
「嫌いの反対が好きなんだから、好きの反対も嫌いなんじゃないの?」
今度はその答えに紀田は首を振り、何故かどや顔。
俺も嫌いだと思ってたんだが…。違うのか。

「なんで??好きの反対って嫌いじゃないの???」
「帝人、好きの反対っていうのはだな、無関心だ」
「無関心…」
あ、やべえ。ついつい少年に混じって俺の声も漏れてしまった。
反射的に少年達から視線を逸らし、一般人を装ってみる。…無理か。

「−で、無関心ってどういうこと?」
こちらに気づきながらも少年は紀田に問う。
「つまり、いじめに例えるとだ。いくらいじめてたって向こうが無反応・無関心だったとして、楽しいか?何かしら反応があるからいじめたくなるだろう。それと同じで、お前も無関心で居りゃいいんだよ。そしたらそのうち飽きるだろうし、な。それに、かえって反応すると面白がってエスカレートするかもしれないから、絶対相手にするなよ」
「うん。反応イコール好きってことだね」
「…そうじゃね?」


戻って池袋。


目の前にはうざいあいつの姿。
しかしこぶしをふるう気はもうない。俺は少年達の会話から学んだ。
相手にしなきゃいい。

反応イコール好き。
反応イコール好き。
反応イコール好き。

…っんなやつ好きになってたまるか!
もう一度深く息を吐く。
よし!
ぐっと堪えてやつの隣りを素通り。何もなかったかのように。

「−あれ?シズちゃん?」
ゴミ蟲が予想通り驚いた声を上げる。
だが、今日の俺はいつもと違う。無視無視。
「え、ちょっとシズちゃん。どうしたのー?どっか具合悪い?」
俺と歩幅をわざわざ合わせ、隣りを歩くゴミ蟲。
ついてくんな。
「ナイフで刺していい?」
勝手にしろ。
「髪型サイヤ人みたくしていい?」
どうぞご自由に。
「幽君と付き合っていい?」
…あ?
 
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