Novel

□You must together
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愛すれば


愛するほど


周りは見えなくなる


俺にはお前だけ



【You must together】



*




「おはようございます、ラビ、リナリー」


後ろから聞こえてきた…男性にしては高めで綺麗な声にドキッとする。

ただし…


「おはよう、アレン君」


ドキッとしたのは黒髪の少女、リナリーではなかった。


「お、おはよう!…アレン」


そう、赤毛に眼帯のBookManJr.…通称ラビだった。


(なんなんさ!?最近俺おかしいさ!アレンの声聞いただけでこんな…)


「ラビ?どうしたんですか?顔真っ赤ですけど…熱でもあるんですか?」


そう言ってアレンは右手でラビの額に触れた。


「…ッ///!!!ななななな何でもないさ!!!!」


体が一気に熱くなった事に気づかれるのを恐れて、ラビはアレンの手を振り払った。


「えっ、ちょっ、本当に大丈夫なんですか!?すごい熱いですよ!?」


当の本人は自らが触れたせいで体温が上昇したとは、思ってもないようだった。

「〜ッ俺、先に食堂行ってくるさッ!!!」


その場の空気に耐えられず、ラビ、逃走。

その早さはまさに脱兎の勢いだった。


「…いったいどうしたんでしょうか…最近ずっとあんな態度なんですよねぇ…」



――何で気付かないかな



ずっと黙って二人の様子を見ていたリナリーは密かにそう思っていた。






*



「――ハァッ…ハァッ……」 


脱兎の勢いで逃走したラビは食堂とは真逆の方向に走っていた。


(びびびびびっくりした…)


人気のない場所まで来ると、その場に座り込んだ。
髪をかき乱し、先程の出来事を思いだして、また顔が熱くなるのがわかった。


「――本当…なんなんさ…」


アレンは男だ。
声が高めなのも、身長が低めなのも、俺より3つも年下だからだ。
女みたいに綺麗な顔立ちは両親がよっぽど綺麗な人達だったんだろう。


…。


じゃぁ……


「何でドキドキするんさ…」


検討もつかない。いつからこんなことになってしまったんだろう…。気持ちの行き場がなくて苛々する。



――俺…アレンのこと…



………好き…?



そういう事なら話は通じる…。


………………!!



「って、そんなわけあるか――――っ!!!!アレンはオ―ト―コ!!俺もオ―ト―コ!!ありえないさ―――っ!!!」


ラビの魂の雄叫びは教団内に悲しく響いた…。




*





「あれ?ラビ、いませんね…」

「あら?本当ね…食堂に行くって言ってたのに…」


…なーんてね…。
ラビ、明らかに動揺して違う方向に行ってたし…。
気持ち、分からなくはないけど…。


「アレン君、先に朝食食べちゃおうか♪」


「え?あ…そうですね。かなりお腹すいてきましたし」


今はまだ、ラビがどうなるか見守ってよう…。


――本当は…


私もアレン君のこと好きなんだけどな…。




*



「ジェリーさん!」


「あらアレン君♪今日のご注文はなにかしら♪♪」


「えっと…ステーキとカツ丼とグラタンとカレーとハンバーグと…ドリアとオムライスとサラダ……デザートにみたらし団子20本とケーキ1ホール…あと…」


「長ぇんだよモヤシ」


アレンの長すぎる注文に、しびれを切らしたのは
長い黒髪に綺麗な顔立ちをした仏頂面の青年…神田ユウだった。


「早くしろ。てめぇのせいでこっちは迷惑してんだ。このモヤシが」


神田の言葉に、食堂にいたエクソシストは勿論、ファインダー、科学班全員が悟った……またアレが始まるのだ、と……。


「…人の注文くらい黙って待っててくださいよ。そんな簡単なこともできないんですか?相変わらずバ神田ですね」 


「んだと?てめぇの注文が長ぇんだろが!迷惑だっつってんだよ!」


ああ…やっぱり始まってしまった…。名物、神田とアレンの大人気ない喧嘩が…。


「仕方ないじゃないですか!僕はいつも蕎麦しか食べない単細胞な神田とは違うんですから!!」


「誰が単細胞だ!!」


「神田ですよ!!」 


「このモヤシ!!」


「パッツン男児!!」


「女男!!」


「それはこっちのセリフですよ、ポニーテール!!」


「やんのかこら「やめなさ―い!!」


このしょうもない喧嘩に終止符を打ったのは、やはりリナリーだった。


「毎日毎日いい加減にしなさい!!みんな困ってるでしょう!?」


「…すみませんでした……」

素直に謝るアレン。
しかし神田は謝らなかった。


「…チッ…どけよモヤシ。ジェリー、蕎麦」


「はいは〜い♪」



「えっ、僕の注文がまだ…」

「どけ、モヤシ」


「ちょっ、うわっ!?」


ドサ…ッ


神田に押し退けられたアレンはバランスを崩して倒れてしまった。しかも…とっさに神田の団服を掴んで。


「――いってぇ…」


「神田が押すから悪いんですよ…どいてください」


「…な…っ」


アレンに言われて初めて気づいた。自分はアレンの上に覆いかぶさるように倒れていると。


「…ッ…///!てめぇが引っ張るからだろ!」


顔が熱い。自分でも真っ赤だと分かるくらいに。


(…なんでだ…)


「……チッ」


素早く起き上がって早足にその場を離れる。


「…本当、何なんですか神田は…」



――ここにも1人…


(アレン君はモテるんだよね…)


それも本人は無自覚だからたちが悪い。


きっと状況を把握できてるのは私だけね、とリナリーは溜め息をつくのだった。



そしてもう1人…この場面を見ていた人物がいた。

――ラビだ。



(なんなんさ……この感じ。苛々する…)


食堂の入り口に立ちっぱなしで苛々の理由を考える。


――アレンに触るな…



自分は今の場面を見たとき、そう感じていた。
その反面、自分もアレンに近づきたい。アレンの上に倒れたユウが羨ましかった。これは…



「…嫉妬さ……」



…。

…………!?



(嫉妬!?今、俺嫉妬って言ったさ!!?嫉妬って!?えぇ!?)


嫉妬は普通異性にするものだ、と思っていた。
でも実際、自分は正真正銘の同姓に嫉妬してしまった…。


……?

正真正銘の同姓…?


(そういえばアレンが男だという証拠がない…ユウは上着脱いだところ見たことあるさ。リナリーは完璧に女だし…)


でもアレンは…?

いつもゴツイ団服に身を包んでるし…そういえば薄着のところとか見たことがない。


(アレンはもしかしてもしかすると………)


「あっ!ラビ!!」


「へっ!!?」


急に声をかけられ驚くラビ。しかもその声は…


「いったいどこに行ってたんですか!?食堂に行くって言っていたのに…」


アレンだった。

体温が上がるのがわかる。更にさっき額に触れたアレンの右手の感触を思い出してしまった…。
柔らかくて…暖かい手を。

「どこにいたんですか?」


「ちょ…ちょっと散歩に行ってただけさ…ははは…」

「もう…勝手にいなくならないで下さいよ…心配しますから…」


本当は朝食に気をとられてラビのことを忘れていたのは言うまでもないが…。

それでも涙目(あくび)で、身長が低いので必然的に上目づかいとなると…


(か…っ…可愛いさ…///)


…と思わずにはいられなかった。





*



夜。

ラビは自室の隅で小さく体育座りをしていた。


(ヤバいさ…俺かなりキてるのでは…アレンのこと普通に何の迷いもなく可愛いとか思っちゃったさ…)



アレンなんて可愛くない!大食いだし腹黒だしモヤシだし………。




でも…いつでも真っ直ぐで皆のこと大切にしてて…笑顔すげぇかわい……い"!?

(ま、また可愛いって…!!?)

「あ〜っ!!?もぅ俺何やってるんさ〜!!?」


一人暴れるラビ。


(…散歩でも行って来るさ)



*




「……」



長い髪をまとめていた髪どめをはずし、カッターシャツにズボンという姿で神田は寝転んでいた。

考えているのはアレンのことだ。


(…何で今日、アイツの上に倒れたとき…)


絶対顔赤かった…。

だって何かアイツ…細っこくて…壊れそうだけど……柔らかくて…いい匂いがした…。


「…ッ///!!」


(何考えてんだ…俺…?)
気づいたらモヤシのことばっか考えてんじゃねぇか…。



…倒れたときのモヤシの顔…少し涙目で…エロい顔してた…アイツ、ヤるときもあんな顔すんのかな…。


(ってモヤシは男だろ!?何考えてんだ!)



…他のこと考えよう…。



…そうだ。馬鹿兎に昨日、本貸したんだった…。とりに行くか…。



神田はそのまま自室を後にした。





*




「――はぁぁぁぁ……っ」


夜中にもかかかわらず豪快なため息をついているのはラビ。近所迷惑も程々にしておけと言いたくなるようなため息である。


(5分くらいで戻ってくるつもりだったのに…)


散歩に出かけてから、なんと一時間以上もの時間が過ぎていたのだ。


「それもこれも、みんなアレンのせいさ…」


自分の非をとうとうアレンのせいにしてしまったラビ。しかし今の彼ではそんなこともどうでもよくなっているようだ。

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