赤い狂気と紫の菊。
□亜水実翔という男
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その日、珍しく雲一つない空。
私は、教室の窓から外を見ていた。
周りは人が集まり、弁当を広げ談笑している。
どうやら私は、彼らから見ると人嫌いとみなされているようだ。
……直接聞いたわけでは無いが、おそらくそうだろう。
誰も私に話し掛けないし、近づこうともしない。
正直、その方がありがたい。
人と関わりを持つのは、苦手だったからだ。
だから私はいつも一人。
そう、その日までは。
「蓮沢さん」
放課後。
帰ろうと席を立ち上がったら、名前を呼ばれた。
振り向くのが遅かったのか、もう一度名前を呼ばれる。
「二度も呼ばなくていいわ」
「あ、ごめん。聞こえてないと思って」
頭をかきながら言う。
重力に逆らった髪が、また更におきあがるが彼は全く気にしていない。
「それで、何の用?」
「え〜……とね、これあげるよ」
突き出した手の中には、紫のキャンディ。
色からして葡萄味だろう、小さなそれを彼は私へと渡した。
「それ、俺のお気に入り。蓮沢さんに食べてほしいからあげる」
「………は?」
「あ!もう部活の時間だ。じゃあね、蓮沢さん」
止める間もなく、彼は教室から出ていった。
赤く夕陽で染まった部屋に、私と紫の飴が残った。
「……………」
それが、亜水実翔との出会いだった。