赤い狂気と紫の菊。

□目から出たもの
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赤い部屋を去った次の日。
教室に入ると、亡くなった人達の机の上に菊の花が供えてあった。

どうやら、私のクラスの人が一番多く殺られたらしかった。


「あ……蓮沢さん……」

「…おはよう、委員長。この花は……」

「また、あったんだって……殺しが……」

「………そう」


私が答えると、わっと目の前の人間は泣き出した。
彼女は天宮綾希子という、クラスの委員長を務めているやつだ。
天宮が泣く姿を、私は冷めた目でみつめていた。


そう。悲しめる感情を持っていて、ただ羨ましかった。



「…………」


顔を覆って泣く天宮から視線を外し、私は教室を見渡した。
白、黄、…の菊の花。一輪だけ飾られているのがまた、悲しさを増幅させている。
そんなとき、ふと、翔の机の上の花に目が奪われた。


「紫の……菊っ?」

「あぁ……亜水実君、の菊ね……ひっく、……誰が置いたかわからないらしいの……」

「……え」

「先生達が来た時には、もうあったらしいのよ……」


誰が置いたかわからないだと?
不思議に思いながら、紫の菊を見た。
不気味で異様で、でもどこか少しだけ優雅な。



『俺、紫のもん好きなんだ。花、食べ物、傘……あぁ、ハンカチも紫だ。落ち着く色だから』



彼が言っていた台詞を、私は脳の中で思い出していた。
笑いながら言っていた彼は、どこか遠くに感じられて。

もどかしくて、彼を憎んだ。


おもむろに、私は翔の遺留品を取り出す。
真っ赤に染まっていた、あの生徒手帳。
今は時間が経ったせいで、血が酸化されていた。






『瑞樹、おはよう』

『……もう、私に構わないで』

『?あれ、俺……何か怒らせる事したかな?』

『別に。ただ、私と関わると碌な目にあわないから』

『どういう意味?』

『私と関わった人、死んでるから』

『……ブッッ。アハハハ!!なんだ、そんなことか!』

『……貴方、なんで笑ってるのよ!実際、何人も死んだのよ』

『じゃあ……瑞樹、約束だ。俺は死なない。絶対に。だから、安心してよ』

『……なに、言って……』

『その代わり!俺が生きてたら今度こそ翔って呼んでもらうからね!』








これが、彼との最後の会話。




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