夢置き場

□1人と1匹だけの秘密
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「なぁ、ニャンコ先生。」

私はひなたぼっこしているニャンコ先生に話しかけた。


「何だ。」


「本当の姿はあんなに綺麗なのに、どうしてこんな変なかっこうしてるんだ?」


「なにをぅ?!変とはなんだ!かわいいだろう!」


ニャンコ先生はぷにぷにと背中をつっついていた私の手を払いのけ、私のひざにのった。


「ほれ、よく見てみろ。愛着がわくだろう。」


「アハハ、いや、それは世に言う物好きというやつだったらそう言うだろうさ。」


私が言うと、ニャンコ先生は私の膝からおり、少し考え込んだ。

いい忘れたがここは住宅地から少し離れた公園。
さっき鳩がパタパタと音をたてて飛んでいったっきりで他はしんとしている。

冬にも関わらず、ここは冷たい風も吹かず、あたたかい日差しが公園全体を照らしている。
時たますぐ近くにある林がさわさわとゆれるあたり、木々が風を受け止めてくれているのかもしれない。

ここは最近私が見つけた穴場だった。
今日いつものようにここに足を運んだら先客がいた。
それがニャンコ先生だ。
最初は驚いたが、さすが猫(?)といったところか。
ちなみに私は妖から逃げていた時に見つけた。


「お前はこの身体が変だと言ったな。」


「な、なんだいきなり。」


突然だったので、少し返事が遅れた。


「言ったな。」


「あ、あぁ。」


ニャンコ先生の妙な威圧感に私は頷く。


「ならば本当の姿はいいのか。」


「あれは綺麗だと思ったよ。」


私が言うと、ニャンコ先生はニヤリと笑った(気がした)。
嫌な予感がした。

ニャンコ先生はその気持ちを裏切らず、ボンッと音をたてた。
これは、まさか…

煙が失せれば、綺麗な毛並み。
こちらを見る鋭い目、あきらかにさっきとは違う身体の大きさ。
そう、ニャンコ先生が本当の姿に戻ったのだ。


「うぇぇ!?こ、ここで戻っちゃっていいのか!?」


「お前がこっちの方がいいといったのだろう?」


「いや、まぁそれはそうだけど」


口ごもる私にニャンコ先生が勝ち誇ったように笑った。


「そろそろ帰るぞ。夏目が探しに来たらかなわん。」


「あぁ、うん。ってそのまま!?」


図体に似合わず、軽やかに歩き出したニャンコ先生に驚く。
見えるのは私だけだからあまり支障はないが……


「おい、うまそうな匂いがするぞ。買ってこい。」


「……あまり話しかけないでもらえるか。」


何かあれば話しかけてくる(主に食べ物)のはやめていただきたい。
皆にはニャンコ先生が見えていない。
ということは、私が返事をすれば1人で話しているように見えるわけだ。

変人の出来上がりだな。

まだニャンコ先生が仮の姿だったら、ペットに話しかける動物好きの女の子になるんだが……。


「しかたないだろう?お前がこの姿の方がいいと言ったのだからな。だから私は元の姿に…」


「あぁ!もう!私が悪かったよ!」


私はニャンコ先生を人気のないところへ連れていく。
勝ち誇ったように笑みを浮かべるニャンコ先生が憎らしい。


「私が悪かったよ。だから仮の姿になってくれ。」


「だがこっちの姿の方がお前はいいんだろう?」


「〜っ」


どうしても言わせたいらしい。
私はしぶしぶ口を開いた。

「仮の姿のニャンコ先生もかわいいと思うから。」


そのとたん、ボンッと音をたてて、ニャンコ先生が小さくなった。


「フンッ最初から素直になればいいものを。」


そう毒づいて、ニャンコ先生はさっきとはうってかわり、ちょこちょこと歩き出す。
私がついていくと、急に立ち止まった。


「どうした?」


「疲れた。抱いてつれていけ。」


どこまでも偉そうだな。
私はニャンコ先生を抱き上げ、歩き出す。
少し思いけど、ぽよぽよの背中がきもちいい。
こっちの姿も、悪くない。と改めて思った。


「おい。」


「ん?」


人が出てきたからか、ニャンコ先生は小声で言った。


「あの場所のことは誰にもいうなよ。」


「!…あぁ。」




1人と1匹の秘密


(そういえば、貴志にも言ってないのか?)

(お前こそどうなんだ?)

(言ってない。)

(ならいい。)






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