オリジナル小説兼ネタ置場
□イカれた兎とアリス
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私と千尋とブラウンの3人で買い物へ出掛けた帰り道、彼らと初めて会いました。
「少し休んでいこうか。千尋も疲れただろうし」
「そうね。そこの公園でちょっと座ろう」
ブラウンの千尋に対する気遣いで、私たちは近くにあった大きな公園の木の下のベンチに座り休むことにした。
「ふぅ、歩いた歩いた。千尋大丈夫? 疲れてない?」
「ううん、全然平気だよ。ねぇ、目の前にある噴水の所で遊んできていい?」
「あ、まだ動けるのね。いいよ、遊んでおいで」
疲れているどころか、遊ぶ体力がまだあったようです。まだまだ若い。それにひきかえ私とブラウンと言ったら…。
「「……」」
ノックアウト状態です。もう体力0に等しいです。
「仕事以上に疲れたよ。この荷物運び。こんなにたくさん買う必要あったの?」
「私も調子に乗って買いすぎた。反省してます」
たまたまチラシに載っていた特売品が安くて買いに行こうとしたのはいいけど、隣街ゆえ道のりが遠すぎるため1日かけて行くことにしました。ブラウンもたまたま仕事が休みだったので荷物持ちとして一緒に来てくれた訳です。せっかく1日かけて行くのだからあれもこれもと購入し気づいたらこの大荷物に。食品、衣服、雑貨などてんこ盛りです。千尋に荷物を持たせるわけにもいかず、私とブラウンで両手に大量の紙袋とスーパーの袋を持ってひたすら歩いてきたんだもの、そりゃ疲れますよ。
「ブラウン、喉渇かない? 私、何かジュース買ってこようと思うんだけど」
「あー、頼んでいいかい。俺コーラお願い」
「コーラだね。じゃ、ちょっと買ってきます」
私は近くの自販機にジュースを買いに向かいました。
頼まれたコーラと、千尋はこの頃何故かジンジャーエールに凝っているのでそれを買い、私はお茶を買って戻ります。途中、噴水で水遊びをしている千尋にジンジャーエールを渡そうとしたのですが…。
「千尋、ジュース買ってきたよ。…どしたの」
水遊びをしていた彼が一点してある先を見つめて微動だにしません。
「千尋?」
「お姉ちゃん今ね、向こうに背の高い変なうさぎさんが男の人の目を潰してた」
「……は?」
何を言っているのか分からない私は適当に話を長そうとしました。たぶんあれだ、テレビの見すぎ。
「ホントだよ!? 今いたんだって。こう、チョキの手をして『目潰しっ!!』って」
「はいはいアニメの見すぎねー。テレビ見る時間削ろうか」
「いたもん! 絶対に!!」
「いるわけないでしょ。だいたい兎が背高いってどんな見間違いする…」
「もう今日は勘弁してよ〜。誰か助けてぇー」
「まだまだこれからだぜィ? ワイから逃げられるんか? アリス〜不思議の国へ堕としてやろかぁ??」
――。
「千尋、もう帰ろうか」
「えー、なんで? ほら、あれだよ。面白いうさぎさんだよね」
「指差すな!」
「んん?」
うわ、目があってしまった。なんかこっち来るし!? またこれは厄介になるよ。
「お嬢さん、おちびちゃんこんにちは〜。何かワイに用あるんか?」
その姿は紛れもなく兎で白く長い耳と赤い目、背が高くブレザーとワイシャツ、ネクタイをしておりなんだか学生服を着てるような感じ。目付きがなんか逝っちゃってる具合に酷い。ブラウンと同じ類いの人なんだろうか。
「こんにちはうさぎさん」
普通に話してるよこの子。内気なくせに興味があると警戒心ゼロなんだから。
「さっき、男の人に『目潰しっ!!』ってやってたよね?」
直球投げた。勇気あるな。
「ほぅ? 見られちゃったのか。運がいいね君。イヒヒ…見たのなら仕方ないよな」
あ、これはやばいフラグだよ。下手したら本当に目潰しされるよこれ。
「あのー、私たちそろそろ行かないといけないんで今日はこれで…」
強引に千尋の手を引っ張り、その場から逃げようとする。
「待ちなァ。お二人さん、そう易々と返す訳にはいかないぜ。ワイの必殺技を見られたからにはその技を堪能してもらわなくちゃなぁ〜」
ひぃぃ、フラグ成立。てゆーか、私見てないんですけど。
「ワイと会えたこと幸運に思え」
マジでやられる、そう思った時には既に兎から逃げてました。もちろん千尋を抱えて。
「鬼ごっこかぃ? 足の速さなら自信あるぜ」
なんで公園で走ってんの私。ゆっくり休みたかっただけなのに。休憩のつもりが殺伐タイムになってるし。
というよりまだ走れる体力が残っていること自体不思議です。こういうの火事場の馬鹿力って言うんだっけ。
第一、兎に追いかけられてるこの状況って何なんですか。
「とーまれ」
「うわあ!?」
逃げる進路を兎に妨げられ慌てる。もともと兎は足が速かったんだなんて今更思い出したってもう遅い。
あっさり捕まえられ、暴れてみる。けど力が強くて振り払えない。
「放してよ!!」
「さぁ、ワイの必殺技をたんと身をもってご覧あれィ」
あぁ…もうだめだ。やられる。
「んぎゃ!!」
その声を最後に兎の力はなくなった。何が起きたのか恐る恐る背後を見ると、兎が目を回して倒れていました。
「全く、いなくなったかと思えばこれだよ」
兎が倒れてるそのまた背後に一人の男の人がフライパンを持って立っていました。
誰この人。
「ごめんね、怖かっただろうに。何もされなかった?」
とりあえず、助かった感じなのかな。悪い人ではないみたい。
「ちょっと目を離した途端に毎回これだからな〜」
男の人はやれやれとため息を吐き、呆れてる様子。
「あのぅ、兎の飼い主さんですか」
「飼い主? うーん、ちょっと違うけどそうなるのかな…」
苦笑いをする男の人。どういうこと?
「アリスはワイの相棒だぜ!!」
「ぎゃっ!?」
突然起き上がったかと思えば、いきなり兎が男の人の両目を指で突いたのです。
「ほら見たでしょお姉ちゃん。カッコイイ!!」
千尋が目をキラキラさせながら兎を見つめる。…どこがカッコイイの。
「あーもう、目を狙うのは駄目だって何回言えば分かるんだよ。これで今日は27回目だからな」
「悪い悪い、少々癖になってるぜ」
27回…。数えてんだ。いや、よく失明しないなこの人。そっちがすごいよ。
「俺は有住圭広(アリスヨシヒロ)。高校2年です。こっちはパール」
「ぼく西ノ宮千尋!」
「西ノ宮有希と言います」
事が落ち着いたところで自己紹介。
話を聞けばこの二人は親友みたいな間柄らしい。なんでも有住さんが中学生の頃、自殺を図ろうと高所から身を投げ出した際、地上でたまたま歩いていた兎ことパールが身柄をキャッチしてくれたという。それから仲が良くなり今に至るらしい。
「ざっとそんな感じだね。だから僕にとってパールは命の恩人なんだ。まぁ、仲良くしようって一方的に言ってきたのは彼だけど」
「え…有住さんは親友じゃないって思って?」
「ううん、そんなことないよ。親友だよ」
「そうだぜ、アリスはワイの親友だ。絆が深まったところで今日はまだまだ遊ぶぜィ!!」
「見ての通り、落ち着きがなくやりたい放題。ほんの少し気をそらすとすぐに居なくなっちゃう。さっきの君たちみたいに被害者続出なんだ。それが今の僕の悩み」
ああ成る程。やっぱりあそこで有住さんの助けがなかったら目潰しされてたんだ。
「ねぇねぇ、目潰しってどうやるの?」
「お。おちびちゃん興味あるんかい? いいぜ、教えてやらぁ」
「わーい」
千尋が何かに目覚めてる。というか教育上良くないだろ。ダメダメ!! 絶対に。
「目潰しっ!」
「ぎゃ」
時既に遅し。千尋に目潰しやられました。習得はやっ。
「千尋! 何すんのよ」
あーもう、またいたずらを覚えちゃって。頭が痛いよお姉ちゃんは。
「こら、小さい子にそういうこと教えるなよ」
「イヒヒ…楽しければいいじゃん」
「ほんとにガキなんだから。ごめんね、後できつく言っておくから。フライパンで叩いておくよ」
…たしかに教育上はあまり良くないけど、千尋があんなに目を輝かせて楽しそうなところ暫く見てなかったし。あんな表情、初めて見たかも。
「あ、ひとついいですか。何でフライパンなんです?」
「これ? 叩きやすいし、暴走止めるのには最善策なんだ。常に持ち歩いてるよ」
いたって単純。しかし、フライパンを常に携帯してるとか多分どこを探しても有住さんくらいだろう。
「またここに遊びに来てくれる?」
「おぅ。いつでもこい。色々教えてやらぁ」
「ありがとう。約束ね」
結局千尋は兎に懐いてしまいました。ともあれそれはそれでいいことかもしれません。その日から私たちはたまに有住さんに会うようになりました。
あれ、なんか忘れてない?
ひどいおまけ。
「ごめん、遅くなって。はいコーラ」
「もう待ちくたびれt、ぎゃあ!!」
ブラウンがコーラの蓋を開けた瞬間、噴水の如く吹き上げました。
「うわ、目が目がぁー!!」
ポケットに入れっぱなしで走ったためその様になったようです。うん、ごめんブラウン。これぞ本当の目潰し。
とりあえず兎が出したかったんです。兎って可愛いですよね。ということで新キャラ追加です。有住君とパールの出合いを後でゆっくり書きたいです。