オリジナル小説兼ネタ置場

□続・駅舎にて
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自動改札。
駅員が乗客の切符を一人一人確認しなくても、機械に切符を通せば瞬時に内容を読み取ってくれる便利なモノ。運賃が不足していたり、切符の内容が適切でなかった場合はその客を止めてくれる。
しかし、本来の"役割"をその駅では果たせていない…。


「あれ?」

有希が改札を通ろうと定期券を入れたところ、改札の扉が閉まってしまった。まだ定期の期限は終わっていないはず。
改札の故障だと思い彼女は駅員を呼んだ。

「すいません、扉閉まっちゃったんですけど」

「あーはいはい、大丈夫心配しないで〜」

「あ。こんにちは」

駅員室から出てきたのは駅長であるルアード。顔見知りということで有希は彼に会釈をした。

「あのう、改札止められちゃったんですけど」

「うん、ボクが止めた♪」

「はっ」

止めた? 止めるって一体。

「だってさ、君カワイイじゃない。ボク君みたいな子好きだよ」

「……」

理解出来ない彼女にルアードは淡々と話す。改札で止められていきなり口説かれた。…告白? いやまさかね。それ以前に自動改札を止めるって普通じゃあり得ない。
っていうか、

「気持ち悪いんですけど」

「へへ、駅長の特権だよ」

「あなたも広辞苑の角で叩いてもらいたいんですか?」

「えー嫌だなぁ。好きってラブじゃなくてライクの方だよ。ボクだって妻がいるんだもん。そんなやましいこと考えないよ」

「じゃあなんで止めるんですか」

「言ったでしょ、ボクの好みだって」

絶対ラブの意味で言っている。有希はそう思いながら冷めた目で彼を軽蔑する。妻がいるにも関わらず中学生相手に好みがどうとか言っている時点で引いてしまう。現に彼は人ではない。犬獣人なのだ。同じ人でも引く発言なのに獣人に言われるなんて考えたこともない。よく結婚出来たなと思ってしまう…。

「そんな目で見ないでよ。異性に興味を惹くのは生きるうえでは大切な事だよ。男としての本能なんだ」

「なら奥さんを大事にしてくださいよ。私なんかより奥さんの方が魅力的じゃないですか」

「妻は妻。君は君。また可愛さが違う♪」

だめだこの犬。返す言葉がない…。

「……とりあえず扉開けてくれませんか」

「もう帰る? 残念だなー。有希ちゃんとは一度ゆっくり話したいと思ってたんだけど」

「私と何を話すんですか。話題がないですよ」

「ボクね、有希ちゃんのご両親と会ったことあるんだよ」

「え…」

彼女の両親に会ったことがある。それを聞いた有希の表情が変わった。

「父と母が何を…」

「食い付いたね。聞きたいかい?」

有希は静かに首を縦に振った。

「ボクがこの駅で業務をしていると二人の男女が近寄って来たんだ。彼らはニシノミヤと名乗って突然ボクに抱き付いてきたんだ。涙を流しながら…」

泣きながら抱き付くとはどういうことか。状況が分からない。話は続く。

「どうやら誰かを探しているみたいで、ボクがその探している人物にそっくりだったみたいなんだ。けど、その人物とはもう二度と会えないんだって。探している相手がボクではないことを承知で抱き付いたんだ」

「誰かを探して…? 二度と会えない人物?」

「うん。相手は違うけど、何か出来ることがないかと言ってきてね。この自動改札の設置費用を出してくれたんだよ。もちろん見ず知らずの人にそこまでしてもらうのは悪いから断ったんだけどさ、どうしてもって聞かなくて…。自分たちも時間がないって言うし」

両親がこの改札口を? 何のためにそんなことを。考えれば考えるほど訳が分からなくなってくる。そもそもルアードに似てる誰かを探していたなんて初耳だ。生前から謎だらけの両親の仕事に疑問を感じていた有希だったが、話を聞いてよりいっそう謎を増す。

「おまけに自動改札の遠隔操作の機能も付けてくれてね、ボクにとっては使い勝手がいいってわけ♪ カワイイ女の子が通ったら止められるしね。感謝してるよ」

あぁ、こうして本来の改札口の役目を果たせていないのは両親のせい…。いや、駅長の性格の問題と言った方が正しいのか。
どちらにせよ、きっかけを作ったのは両親に違いはない。

「もー、何してんだか。…ん? よくその二人が私の両親だって分かりましたね? ニシノミヤと名乗っただけじゃ分からないじゃないですか。ただの同姓かもしれないですよ」

「だってその二人は後に自分たちの子供がこの町にやって来るだろうから、その時はよろしくお願いしますって言われたよ。それって有希ちゃんと千尋君のことだろ? ニシノミヤなんて名字そうそういないし」

それはつまり有希たちが前以てこの町へやって来るのを分かっていて言ったような語り口で、ルアードに接触することも分かっていたということか。しかし、なんで分かったのだろう。

「どうして…」

「だからさ、ボクは有希ちゃんと千尋君を困っていたら助けてあげたいんだ。改札口設置のお礼にね。こんな田舎の寂れた駅にも自動改札が出来るなんて思いもしなかったから…。朝と夕方の通勤通学時間はけっこう混み合うからこっちとしても大助かりなんだよ」

「ルアードさんって真面目なのか真面目じゃないのかよく分かりませんね」

「ボクはね、元々存在価値がないの。ただそれを自分自身で否定的に暗示をかけているだけ。平凡な日常を必死で演技してるだけなんだよ。君たちには到底分からない話だろうけどね」

「え、それってどういう意味…」

「えへへ、なーんてね。本気にしないで。冗談だよ。とにかく、ボクは君たちの力になってあげたい。何かあったらボクに何でも相談して。小さなことでもいい。いつでもこの駅に居るから」

両親の死後、新たな情報を聞いた有希は正直胸を掴まれたような気分だった。思いがけない場所で両親は動いていたということ、この駅の改札口は両親が設置してくれたという謎の行動。
生きていたら何をしていたのか問い詰めることが出来たのに。

あれ…ちょっと待った。さっき、ルアードは何と言った? 自分たちも時間はないと言っていなかったか。それはその時既に死ぬということを察知していたということではないだろうか。
本当に両親は事故で…。もし、そうではなかったのなら…
いやそんなことはない。深く考えすぎだ。全て悪い方へ考えてしまうのはよくないことだ。


「とまぁ、話はそんなところ。ごめんね止めちゃって」

「…………」

「有希ちゃん?」

「うぁっ? あ、はい」

「大丈夫かい? だからさ、なんでも言ってね」

「ありがとうございます…」

ようやく改札の扉を開けてくれ、無事に駅の外に出ることが出来た。
多少引っ掛かることもあるが考えたところで解決出来るようなことではないのはじゅうぶん承知のこと。
彼がそこまでして有希たちの力になりたいと思っていたのはちょっと意外なわけで、彼女本人も彼の見方が少し変わった。
見方が変わったせいか、軽蔑したことを後悔し、彼に謝ろうと彼女は後ろを振り返った。

「ルアードさん、あのね…」

振り返るとそこには別の女性を改札口で止めて口説いている姿があった。

「よかったらボクとアドレス交換しませんか? いつでも時間空いてるので…」



「――っ。」



直後、有希が懐から広辞苑を出したのは言うまでもない。





「ニシノミヤ。…絶対に」





この時、第三者が会話の内容を聞いていたなんて知るよしもなかった。





「有希ちゃん容赦ないよ〜」

「知りませんよもうっ」













やっちまった伏線投下!!
アンスールのスランプ中に鬱憤をぶつける勢いで書いてしまいました。やっぱり伏線撒き散らすのって楽しいですよね。で、後に伏線回収をし忘れるて矛盾を生み出すと。
本編書いてないのにどんどん書いていいのかな…。なるべく本編に繋がるよう頑張ります。ルアード好きだなぁ←

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