オリジナル小説兼ネタ置場

□駅舎にて
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「あっ?」

「ちょっと、ガンつけないで。ここ駅だよ」

海岸を目の前にしてその小さな駅はこの町にとってとても大事な交通の足。海沿いを電車が走り、車窓からのその魅力はマニアの中で有名になっている程。
通学や通勤時間帯はそこそこ乗客もいて、電車の本数もある。しかし、日中は利用客も少なく電車の運用も1時間に1本あるかないかの程度。
それでも地元に愛され、今日もまた人と人、場所と場所を繋ぐ重要な役割を果たしているのです。

そんな公共の場所で、ブラウン…いやカイルが何やら駅の人(ではないけど、ぽい人物)にものすごい形相で睨んでいます。
あ、カイルというのはブラウンのもうひとつの人格で何が原因で切り替わるのかは私にも分かりません。分かっているのは口も目付きも悪く、他人を冷酷に見下すということ。なんでも、カイルはブラウンの過去の人格であって、名前もカイルと言うらしい。だから、本人と友人からすればカイルが主人格でブラウンというのがもうひとつの人格になる。
けど、カイル自身も過去の記憶はないらしい。どこで何をしていたのかは分からないみたい。分かってるのは自分自身のことだけ。


「カイルさん!」

「うっせ。アイツが睨んでくっから睨み返してんだよ」

睨んでいるのは間違いなく駅員さん。その姿はブラウン同様、制服を着た犬。垂れ耳で黒い毛並みがちらほら、何やら黄色い丸い形の首飾りをしている。

「やぁ、お嬢さん。ボクと一緒に人生のレールを歩みませんか?」

「え、私? っていうか、私中学生なんですけど」

「なにガキ相手に口説いてんだよ。ロリコンかお前は」

「失礼な。ボクなりのファーストコンタクトのジョークだよ。ジョークも分かんないのかい君は」

「うるせー、犬駅員」

「黙れ狂犬」

なんか雰囲気がだんだん悪くなっていますけど、大丈夫でしょうか。

「あの、あなたたち知り合いなんですか?」

「そう、残念なことにねぇ。何を話してもコイツとは絶対に分かり合える話題がないよ」

「俺もお前となんか分かり合いたくねーよ」

「なんだぁ、兄さん面貸してみなァ」

「あぁ? 殺すぞてめぇ」

「はいはい、ストップ」

話を聞けばこの駅員さんはブラウン(カイル)が働いている引っ越し屋で働いていたそうです。歳も同じく、ブラウンとしてでは意気投合し一夜を飲み明かした仲らしい。しかし、人格が変わりカイルとして接したところ売り言葉に買い言葉の大連鎖。殴る蹴るの最悪の仲に陥ったそうです。

「まだ名前言ってなかったよね。ボクの名前はルアードと言います。この駅の駅長やってます。よろしくね」

大変失礼いたしました。駅員さんではなく駅長さんでした。…駅長さんに食って掛かるってどうなんですか。カイルさん。


「駅長だかなんだか知らねーけど、気安く有希に話かけんじゃねーよ」

「へぇ、君が有希ちゃんか。ブラウンから聞いてるよ、辛かったよね…。我慢しなくていいよ。ボクの胸でいっぱい泣きな」


見た感じ真面目そうな駅長さんなのに、言っていることはかなり引く。あぁそうか。真面目なのはきっと制服のせいかもしれない。


「そうだ。寂しくならないようにボクが定期的に連絡してあげようか。アドレス交換しようよ」

ひぃぃ、予想外にこの駅長さんアブナイ。

「気持ち悪いんだよ。有希に近寄んな」

「あんたに話してないよ。消えろ」

「はぁ?」

だめだ。このままじゃエンドレスにこのやり取りが続いてしまう。
そもそもなんでそんなに仲が悪いのだろうか。試しに聞いたら…


「コイツが犬の飯はドッグフードだって言うから、俺はホネだろって反論してやった。したらコイツ、マジになってきてな」

「そうだった。あとね、犬は放し飼いか鎖で繋がれてるかで喧嘩になったこともあったよ。ボクは断然、鎖派だけどね」

「あり得ねぇだろ。束縛されてたまったもんじゃねぇ。犬にだって自由は必要だ」


しょーもないわけです。もう少しまともなのかと思いきや、子ども並みの口喧嘩ですよ。
獣人でもやっぱ犬の血は流れているのだと実感はしました。

口論は止まりそうもないのでしばし見学。仲裁したってどうせやめないだろうし。電車の時間まであと20分くらいあるし。





「…だから、下着は絶対トランクス派なの。それ以外考えられないの」

「ガキだなお前は。男は黙ってボクサー派だろ。ただ穿くより見せる下着が洒落てるだろ」


……。なんか、話題が下着討論になってますけど。一応私女の子なんですけどね。

「有希ちゃんはどっち派?」

え、……え? なんで私に振る。その質問おかしいって。どっち派とかの問題じゃなくて。

「おい、失礼だぞ。有希は女の子だ。分かるわけないだろう」

よかった、カイルさんならちゃんと分かってくれている。

「じゃあさ、女の子はどんな下着を穿くわけ? 男みたいに派閥があるの?」

「そうだな、俺も知らん。有希、ちょっと下着見せt、ごふっ!?」



あまりにもまじまじと聞いてきたので広辞苑の角で殴っておきました。失礼極まりない。最低最悪。


「あ、電車来た。すいません、今日はこれにて失礼しますね」




「次、変なこと言ったらあなたも角じゃ済みませんよ」

「…あ、はい。ごめんなさい」

私はカイルさんの首根っこを掴み、さっさとホームへと歩いて行った。


「私に従え、狂犬」

「すみませんでした<(_ _)>」





「飼われてる…」










主人公のライバル的存在。ルアードさん登場。女好きのどうしようもない方、という設定のつもり。人間の奥さんがいます。
重い話じゃなければ有希は基本ツッコミ、仲裁、制裁役。広辞苑はいつでも取り出せるように常に常備しています←
作者から見ればカイルとルアードの精神年齢は中学生。いっぱい出してあげたいキャラの一人。

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