南に本気
□手ぇ握っとって
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「おーう烈おかえりー。インターハイお疲れさん」
「…おま、アッサリしすぎやろ」
部屋のベッドに寝転がって物思いに耽っていたオレの元にやってきた幼馴染みのアホは、手に持っていたチューペットを半分に割って片方を差し出した。
そのままベッドに腰を下ろすとスプリングが軋む。
「なんや、涙浮かべて残念やったなーとか言うて欲しかったん?」
「薄ら寒いわ」
「せやろ」
起き上がってベッドの上に胡坐をかいてチューペットに噛り付く。
メロン味、溶けかけ、冷たい。
「どうしても泣きたいんやったらアタシの胸に飛び込んでもええで?」
「貧乳はお断りや」
「アホ、貧乳を笑うモンは貧乳に泣くんやで」
イヒヒと笑うコイツはホンマに慰める気もないんか。
ま、実際そんなんされたないねんけど。
「あー…うかうかしとると夏休み終わってまうで」
「せやなー」
「アカン!アタシまだ夏を満喫してへん」
「おー」
「…………」
「…………」
「………つよしくん」
「出掛けへんで」
「ちょ、まだ何も言っとらんやん!」
アホか、言わんでも分かるわ。
コイツがしたい事、してほしい事、そんなんが手に取るように分かるようになったんはいつからやったか。
物心ついた時からそれが当たり前過ぎて意識した事も無かった。
それだけオレがコイツの事を見とったっちゅー証でもある。
…悲しいかな、本人は全く気付いてへんけど。
「こんな部屋におったらクーラー病なんでー」
「そんな気分ちゃうねん」
「ふぅーん。せや、烈宿題やっとる?」
「やっとるように見えるか」
「見えへん!からな、手分けせえへん?アタシ文系で烈が理系、どや」
「岸本も巻き込んだれ、どうせアイツもやってへんやろ」
「せやせや、三人やったら大分手間省けるもんな!」
何がそないに嬉しいんか、ニコニコと笑うその顔を抱き締めたい衝動に駆られる。
もしもコイツがあの時広島におったら、コイツの笑顔が試合会場にあったら。
オレはまた違った結果を導き出せとったんやろか。
「ほな、早速岸本に電話してくるわ。電話借りんで」
「………行かんでええ」
「は?わっ!」
立ち上がった腕を掴んでベッドに引き戻し、そのまま腕の中に閉じ込めた。
多少抵抗されると思っとった筈が存外大人しく、その細い肩に顔を埋めると控えめに背中に手が回る。
酷く愛しい。
「……つよしー?泣いとるん?」
「泣いてへんわ、アホ」
「烈の背中おっきいなー」
ヨシヨシと宥めるように背中を撫でていた手がオレの手を取って、まるで恋人同士のように指を絡める。
「手も大きなったなー。アレやな、身体だけデカい子供みたいやな」
いつものような軽口の台詞のくせに、その口調は酷く柔らかい。
なんやねんこんな時だけ、お陰で吐きたい悪態も吐けへんくて、オレの口から出てきたんはもう少し手ぇ握っとってくれという情けない言葉だけやった。
愛しい感情
由恵様