Story
□恋する才能
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「ねぇ牧田くん…真由美がもう話しかけてこないでってさ。」
俺、牧田時也が半年前に告白して、付き合っていたのか、ただ結局のところ片思いだったのかわからない同級生の女の子。
その女の子の友人から、一方的に伝えられた別れと拒絶はまだ青春の盛りだった俺を酷く傷つけたのだった。
“恋する才能”
あれから…
5年。
俺ももう大学2年生になり、いい加減まともな恋愛の一つでもしなければと思うのだが、
なかなか一歩が踏み出せずにいる。
高校時代にちょっと頑張ってみたりもしたが、どんなに良い雰囲気になっても俺の心は覚めたまま。
同じような髪型をして、同じような背伸びをした化粧に服。
みんな同じ。
俺の何がいけなかったのか。今思い出せば、確かに好きだと言える女の子は酷く俺を傷つけたあの子だけ。
嫉妬深かったのだろうか…しつこかったのだろうか…告白した時、付き合ってくれなんて言っていないのに、
彼氏面したのがいけなかったのだろうか。…俺にそんなつもりはなかったけれど。
思春期の恋愛なんて、周りに盛り立てられてその気になって…なんてよくある話ではないだろうか。
俺だけかな…?
ただ、一番辛かったのはフラれたというより、拒絶されたということ。
「話しかけてくるなって…。」
それはつまり関わってくれるなと言うことで…。
「もう嫌われるのは嫌だな。」
そう思い、高校デビューをすべく高校入学と同時に理想の自分を演じ始めた。
目指すのはそう。マスコットのような…愛される、慕われる。でも、恋愛になんて発展しない“良い人”の自分。
「おーい!時也。講義終わってんぞ!いつまで寝てんだよ。食堂行くぞ!」
体を揺さぶられる感覚に俯いていた顔を上げると、同じ高校から進学してきた同級生の谷岸光が立っていた。
「あ。わりぃ…寝てたわ。」
寝ていたわけではないが、ちょっとネガティブな思考に浸っていたせいか意識がはっきりとしない。
実は、高校デビューの段階で失敗したことがある。それは、愛される人気者ムードメーカーではなく、
どちらかと言うとクール系な空気の読める男になってしまったことだ。
もっとこう…そう。それこそ目の前の谷岸のようにムードメーカーなキャラクターになるはずだったのだ。
だが、よく考えれば俺はそんなタイプではないし、今考えるとあまりの似合わなさに鳥肌が立つ。
「ねーねー!時也!S女との合コンの話し聞いた?」
「…?いや。聞いてない。何?S女と合コンすんの?」
ご機嫌な様子の谷岸はなんの歌かわからない鼻歌を歌いながら俺の隣を歩いている。
恋はできなくとも、やっぱりしようとは思うわけで…。合コンという響きに惹かれないわけもなく。
「今週の金曜日にやるんだ!時也今フリーだろ?来いよ。」
今と言うより長いことフリーだとは言えない…まぁ童貞はさらっと捨ててはいるが…。
S女は地元の私立女子大でオレ達工学部の人間は普段から女子のいない空間で授業を受けることが多く、
出会いも少ないため、合コンでの出会いはとても貴重なのだ。
とはいえ、やはりモテるやつや、サークル、部活などでの出会いをものにして、ちゃっかり彼女のいるヤツもいる。
谷岸は最近彼女にフラれたばかり。フラれたその日の夜に酷く酔っぱらって俺の住むアパートまでやってきて、
気持ちよく寝ていた俺を呼び鈴の連打で起こしてくれたのがたしか先々週の初めごろのことたったはずだ。
「…お前…凹んでたわりに復活するの早いな。」
到着した食堂で食券の券売機前にできた列に並びながら俺は小さく笑った。
「うるせー!うじうじしてんのは性に合わねぇんだ!」
そんな話をしていのが週の頭あたりの話だった。
実際参加してみると、同じ大学の男子は俺と谷岸、そして別の学部の大川の3人。そして、岸谷の友人で地元の国立大学に通う男が2人といったメンツ。
女子は事前に聞いていた通り、S女の5人だった。
どの女の子も綺麗どころって感じだったんだけど、何でか俺はいつも以上に無口で、一人淡々と酒を口にしていた。
なんでここにいるんだっけとすら思い始めていた。正面に座っている綺麗なブラウンの髪をゆるく巻いた女の子…ええと…最初に自己紹介をしたはずなのに、正直もう忘れた。
一生懸命話かけてくれてすごくありがたいんだけど、だんだん学部の女の子の愚痴っぽくなってきてる…。女って怖い。
なんとか相槌をうちつつ、隣を見てみれば、谷岸が酒の飲みすぎだろうか、顔を赤くしながらも女の子と楽しそうに話していた。