Story
□恋する才能
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結局誰とも連絡先を交換しないままお開きとなり、俺が谷岸をタクシーに押し込んで連れて帰ることになった。
谷岸はかなり酔っていて、店からウチの方が近いのでウチに泊まらせることにした。
別にタクシーに乗ったのだからウチに連れて帰らず送ってもよかったのだが、谷岸の複雑な家庭環境を知っているだけにこんな状態のコイツを自宅に送るのは戸惑われた。
谷岸は3人兄弟で兄が2人。
だが、谷岸は母親の連れ子で、兄2人は父親の連れ子であるため、あまり仲が良くないらしかった。連れ子を連れての再婚で、実家に居づらいようなことも言っていた
すやすやと寝息を立てているこいつがそんな事情を抱えているようには見えないだらしない寝顔を見つつ、コツンと頭を小突いた。
実は谷岸の母親こと美和子さんと俺は連絡先を交換していたりする。“ウチに泊まらせます”とメールしておいた。感謝しろよ谷岸め。
「おい、そろそろ着くぞ。」
谷岸を起こしていると見慣れた自宅のあるマンションが見えてきて、やっとホッと息をつくことができた。
思っていた以上に気をはっていたらしい。
タクシーのおっちゃんに金を払い谷岸を担ぎ上げる。
「おいしっかりしろってー…。」
半分寝ているような状態の谷岸は重かった。
俺より小さな体でよかったと心底思う。もしもオレよりデカかったらきっと途中で放置して帰ったに違いない。
谷岸を自宅マンションへなんとか運び、自分の部屋のベッドに投げるように下すと壁に頭をぶつけたのか鈍い音を立て、痛みに悶えたかと思えばまたすやすやと寝始めた。
「……あー…重かった。」
うちの母親は看護婦。父は単身赴任中で、今日は母が夜勤の日のようだ。
そして俺には2つ年上の兄がいるのだが、どうやら兄も飲み会かなにかで不在なようだ。
台所へ行きグラス1杯の水を飲み干すと少し頭がすっきりしたような気がしてくる。
深夜0時を回ったころ、自宅のインターホンが鳴った。
「誰だ?こんな時間に?」
怪しいとしか言えないが、もしかしたら兄たちかもしれないなと思い玄関へ向かった。
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。」
ドアスコープも覗かぬまま、俺は扉を開けた。
「あ。こんばんは時也。…ちょっとしっかりしてよね乙也(いつや)」
乙也は俺の兄だ。そして兄を連れて困り顔のメガネをかけた優しげな男は兄の幼馴染である瀬田優司(せたゆうじ)さんだ。
兄と優司さんは同じ国立大学に通う4回生で、兄は俺と同じく工学部、優司さんは法学部の学生だ。ちなみにお隣さんである。
「あ。すみません!ちょっと!兄貴しっかりしなってー…。とりあえず中に。」
「遅くにごめんね。お邪魔します。」
器用に自分の靴を脱ぐ優司さんの横で俺は兄貴の靴を脱がせ、兄貴を部屋のベッドまで2人で運び上げた。