Story
□恋する才能
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「ふう…重かったー…流石に自分と同じくらいの体格の男を運ぶのはキツいなー。」
リビングのソファで2人腰掛けやっと一息つけた。
谷岸といい、うちの兄貴といい、なんだこの酒癖の悪さと自制できない残念っぷりは。
優司さんと兄貴はサークルのメンバーと飲み会だったらしいのたが、優司さんはさっぱり酔ったような素振りはない。
「優司さんはお酒強いの?」
「いや?そんなこと無いよ。普通だと思う。けど今日はサークルメンバーでちょっと遠出してからそのまま飲み会だったから、オレが運転だったしキープドライバーだったんだよね。だから飲んでないんだ。」
時也は少し飲んでるね。そう言って優司さんは柔らかく笑った。
「時也は合コンかな?」
「え?何でわかったの?」
「だってなんかいつもよりちょっとオシャレしてるし、髪もセットしてるから。」
うわ…なんかそう言われるとすごく張り切ってたみたいでなんだか恥ずかしい。そんなつもりなかったんだけど…。
いやまぁ、健全な男子ですから?多少期待はして行はしたけども。
「オレも大学入りたての頃はよく行ってたけどね。最近はさっぱりだな。」
「優司さんが合コン?行かなくてもモテるでしょ?高校のころからよく女の子連れてたじゃない。」
そう、
"恋"に"才能"があるというのなら、
間違いなく優司さんと不本意ながら俺の兄貴はその才能がある。
俺様気質でぶっきらぼうな兄貴と正反対に、優司さんは優しい物腰で紳士的な人だった。
何度かお隣さんの優司さんが彼女を家へ招いていたり、彼女を家まで送っているのを見かけた事があった。
丁度失恋して落ち込んでいたころは思春期真っ盛りだったこともあり、そんな優司さんを避けてしまったこともあったし、兄貴と喧嘩することもよく有った。
それまでは兄貴より兄らしい世話好きの優司さんはよくおれの相談にのってくれたり宿題を教えてくれたりと本当の兄のように俺もしたっていた。
俺が高校に上がってからは大学受験だ塾だなんだと忙しい二人と生活する時間帯が合わなくなり、優司さんとはあまり出くわすこともなかったので、こうしてソファーに座って2人だけでのんびり話すのもなんだかかなり久しぶりな気がする。
「うーん…モテはしないけどね。それにオレけっこう我儘だからさ。」
困ったように笑う優司さんに驚きつつ、俺がじっと優司さんを見つめると、ゆっくりと優司さんは話してくれた。
中学、高校と告白もされたし付き合った人もいたけど、長続きしていたわけではないこと。
相手に不満が無かったと言う訳けでは無いけれど、相手から別れを告げられていたたことも。
あまりに意外な話に驚いていたが、一度兄貴が「優司が本気になった女なんて見たことねぇ。」と電話で話しているのを聞いたことがあった。
「時也だってモテるくせに。」
「はぁ?何でそうなんのさ。俺だって彼女いても長続きしたことないし、現に半年もフリーですけど?
っていうか…うーんなんかなぁ…」
「何?なんか悩んでんの?お兄さんが聞いてあげようか?」
ため息をついたオレの横でくすくすと笑いながら優司さんはそんな事を言う。
「そのさー…えーとさー…。優司さんは恋に才能ってあると思う?俺さ、まともな恋なんて初恋以来できてなくて。兄貴とか優司さんはどちらかっていうと俺より経験もあるし恋もしてきたとはおもうんだけど、どうかな?」
「恋に才能ねぇ…うーんそれは考えたこと無かったな。
でもそうだな…おれは才能っていうのは違うんじゃないかなって思うんだよね。だってオレの場合付き合ったことはあっても好きになった事ってほぼ無いしね。
付き合う事って必ずしも恋とイコールでは無いと思うんだよね。相手が好きって言ってくれるならなんか付き合ってみようかなって思っちゃうことってあるじゃない。それって恋ではないよね。
まぁそこから恋になっていくこともあるかもしれないけど。」
「まぁあるよね。流されるまま付き合うことも。」
「でしょ?オレは"恋する才能"じゃなくて"恋に気づく才能"の方が重要かなって思うんだけど。」
どう思う?と優司さんはいつも通り柔らかく笑った。