Story

□恋する才能
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 優司さんの問にぼんやりと考えていると、アルコールのせいか眠くなってしまった。
 コクコクと船をこぎ始めた俺を見た優司さんはおかしそうに笑い、酔っ払いにベッドを占拠されてしまっている俺をお隣の自宅へ招待してくれた。

 優司さんは自分のベッドを俺に貸してくれ、自分はリビングのソファーベッドで寝るからと言って部屋を出て行った。

 なんだかんだ俺は中学のころからあまり優司さんと遊んだりこうしてお隣へ来ることもなかったので、こうして部屋に入れてもらうのは本当に久しぶりで、なんだか変に緊張した。
 まぁ、ベッドに入ってしまえば緊張なんて吹き飛んで夢の中だったけれど。






 ぽかぽかと温かいなにかがそばにある。

 眠気ではっきりとしない頭でそれにすり寄るとそれは少し硬くてじんわりとぬくもりが伝わってくる。

 かすかに聞こえる音で外は雨が降っていることが分かった。

 
 しとしと


 雨のせいか室内は暗くひんやりとした空気が漂っているようだ。

 もぞもぞと寝返りを打とうとしたが、なにかに囲まれているかのような感覚で身動きが取れない。

 唯一動かせた手で寝ぼけ眼でシパシパする目をこすると、人工的に染められた柔らかなハニーブラウンの髪と整った顔立ちが目に入った。
 思わず声を上げそうになったがぐっとこらえてソロリと目の前の人物に視線を移す。

 いつもは黒縁のメガネをかけている優司さんがメガネを取り素のまま、どこかあどけない表情で眠っていた。
 メガネを取ると少しタレ目がちなのがわかった。

 俺の体制はというとまさに抱き枕状態で、優司さんがゆったりと俺を抱き眠っている状態だ。

 それにしても何故同じベッドに優司さんが居るのか。

 確かに昨晩は別々に床に就いたはずだった。
 よく見ると優司さんは客用であろう掛布団を持ち込んでソファベッドからこちらに移動してきたようだ。
 きっと明け方ごろに雨が降り始めてから室内の気温が下がり、寒くなってこっちに来たのだろうと俺は思った。

 兄貴やサークルの仲間に遅くまで付き合わされて、昨日は一日運転したり出かけていたからか疲れているだろうし、よく眠っているので起こしてしまうのも申し訳ない。
 しばらく考え、このまま優司さんが起きるまで待つことにした。

 男二人でシングルベッドって…どんな状況だよこれ。

 思わず脳内でツッコミを入れつつ、少し上にある優司さんの顔を見つめた。

 そっと手を伸ばし髪に触るとふんわりさらさらとした感覚。気持ちのいい手触りが気に入っておれはしばらく優司さんの髪を触って楽しんでいた。


 しばらく堪能したころ、優司さんがゆっくりと体を動かし眠そうに目をこすりながら手を伸ばした。どうやらメガネを探しているらしい。

 おれは枕元にみつけた優司さんのメガネをかけてみせて「おはよう」とあいさつをした。


 「おはよ。時也…オレのメガネ返して。」

 「えー。俺寝込み襲われちゃったしなーどうしよっかな」

 なんて冗談を言ってケラケラ笑って見せると、優司さんはちょっとムッとした顔をしてぐっと俺に顔を近づけてきて




 触れるだけのキスをした。


「は?」



 俺が間抜けな声を上げている間に優司さんはさっと俺からメガネを奪いかえすとメガネをかけゆっくりと上体を起こし背伸びをした。

「何?…そんなにびっくりて。もっとして欲しい?」

 今までに見たこともない意地悪そうな顔で笑う優司さんを目の前におれはポカンと口を開けたまま茫然としていた。
 目の前で楽しそうに笑うこの人は誰だったか。

 そんなことを考えているとグっと引き寄せられてまたキスされた。

 ぬるっとした感覚におれはビクっと肩を震わせて優司さんの肩を押し返すけれどびくともしない。
 優しそうで兄貴よりも少し華奢な印象のだった優司さんだけどどうやらただ細いわけではないようだ。

「っ…はぁ…ぁっ」

 優司さんの舌に翻弄されるままに俺の思考はドロドロと溶けて行く。

 何で…こんなことになってんだ?

 
 え?
 


 だってだって意味がわからない

 優司さんは兄貴の幼馴染で

 ずっと昔から知っているもう一人の兄貴みたいな人で


 頼りになるいい人で…


 そして俺になぜだかキスをしている。


 互いの唇が離れるとトロリと唇に濡れた感覚がした。


 
 ハァハァと息を整えていると、優司さんは俺の少し伸びた前髪をそっと片手でかき上げて額にキスをした。
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