Story

□ウサギとオウム
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明の話はありがちで、でも見知った人間の口から発されるそれらはあまりに痛くて。俺はただただ明の言葉に耳を傾けることしかできないでいた。

 時折手元にある写真集をそっと撫でては少し切なそうな顔をする明は、繁華街で再会したときの表情とは180度違う印象だった。


「オレさ、ずっとずっと写真をやりたくて。」
「うん。」

「オレの実家って自営業だったから忙しくってさ。家族写真なんて本当、七五三の時くらいしか撮ってないんだ。
 オヤジは職人気質な人だったから無口だし、写真とかあんまりスキじゃなかったんだ。って言うか、なんだか写真に写るのが気恥ずかしかったらしいんだ。」

 成長して、家にあったアルバムを見て驚いた。

 そのあまりの薄さに。

 しかも、その薄いアルバムには幼いオレばかりが写った写真が納められていたんだ。

「そのアルバムがやたらと印象的で、写真をやりたいと思ったんだ。
 なんかさ、母さんの手書きのメッセージが一緒についててさ、ぶれた写真とか、逆光でいまいちな写りの写真も全部全部とってあって…。なんか暖かくて。
 忙しい両親だったから、オレはほったらかしにされてるってずっと思ってたのに。それ見たらさ、俺が家族のために何かしなきゃって思ったよ。」


“だから写真は…大学はやめた。”

 困った顔で笑う明の目は本当に真剣だ。


「ねぇ、オレ間違ってたのかな…。」

 ぼんやりと視線をドアへと向けながら明は言う。

 
 自らを犠牲にしたこと
 

 すきな写真をやめたこと


 今の仕事についたこと…





「明は後悔してるのか?」


 とても酷な質問だとわかっていたが…聞かずにはいられなかった。


「……少し。


 でも、オレ頑張ったからオヤジも立ち直ってくれて…母さんも今は生活大分楽だって言ってた。
 今は最善の方法だったのかなって思ったりも…したり…する。」


「そうか。なら間違ってなかったんじゃないか?」


 曖昧な答えしかオレは明に贈ることができない。むしろ、オレは明の選んだことに正誤の判断することはできなかった。だって全ては明が選んだことだから。

 ゆっくりとハニーブラウンの髪をなでながら、どこか心地よくも感じる沈黙に瞼を閉じた。



 しばらくそのままでいると、明が口を開いた。


「ねぇ、スグルのことは教えてくれないの?オレばっかり自分の事話してる!」

 突然何を言い出すのかと思えば、俺のことを話せとそうせがんでいるらしい。


「それじゃ…少しだけ。な?」


カフェ☆Boys
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