Story
□ウサギとオウム
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俺の両親はオレが中学の時に離婚。俺は母に引き取られた。
仕事のよくできる母だったが、家事はまったくと言ってもいいほどできなかった。まぁ、そんなわけで俺が必然的にこなしていたわけなんだが。
高校3年の年に母さんは再婚した。
新しい父さんも子連れで、中学3年生の女の子が妹になったんだが、元々一人っ子だった俺に突然妹ができたところで、この自分中心じみた考え方が変るわけでもないし、むしろ、居心地の悪すぎる我が家で妹となんて話す気にすらならなかった。
日に日に俺の居場所が無くなっていった……
「まぁ、受験生だったからな。勉強だといって部屋にこもれば無理に義父とも、義妹とも顔をあわせなくてすんだ。」
あとは県外の大学に合格してしまえば全ての問題から解決されるってわけだ。
半ば無理やり家を出た俺は、志望大学の経済学部に合格。順風満帆すぎる学生生活を送った。
卒業後は、地元に戻って就職しろと言う両親を無視し、俺は学生時代住んでいた町よりもさらに実家から離れた町で職を探した。
少しでも遠く
遠く…
あの居場所のない家から離れたかった…。
居場所なんてものは、一人になってから自分自身で築き上げることができるってそのころの俺は信じていたから。
「まぁ、そんなことをまだ社会を知らない学生の脳な俺は考えていたわけだ。
そんなこんなで、実家に帰る気なんて毛頭なかった俺は、なんとか今の職場に就職して親とのつながりを断ち切ることに成功したわけだ。」
「?連絡先教えなかったの?」
「何も教えてねぇな。とりあえず生きてるってことだけはわかってるはずだ。家に毎月入金してるからな。」
「お金?なんで?」
「その義妹ってのが車椅子なんだ。まぁ、俺の居場所がなかった原因の一つだ。妹は全然悪くねぇんだがな。
両親がつきっきりだったし…。結果的にそうなっちまったって話だ。
とは言っても、最初から家族が増えるのが嫌だったわけじゃない。
むしろ、喜んでた。妹にも頑張ってほしいって気持ちは今でも変ってねぇしな。」
お前の家族に対する思いとか、尽くす方法ってのが自分を犠牲にすることだったように、俺にも家族のために…あの家から離れたんだ。
「俺は大丈夫だって。だから。妹についていてやってほしいって。」
同じ一人っ子同士。わかるんだ。一人はさみしい…働く両親の邪魔にはなりたくなくて、縮こまって、遠慮して。
「俺よりまだ小さかった妹には、甘えるだけの余裕とってものを持たせてやりたかったんだ。足の事で両親に気を使わせてるのを気にやんでるいるもの知ってた。
俺にできる兄貴らしいことなんてそのくらいなもんだ。」
自分でも矛盾していると思う。
本当は自分のために家を出たも同然なのに。それを家族のためだという俺。
居場所を探していたはずなのに…それを家族には求めていないはずだったのに…たしかにその家族の一員として存在を刻みたいがために続ける毎月の振込み。
「バカらしいだろ?俺の……無駄に高いプライドなんて…。」
俺がそう言って乾いた笑をこぼすと、明は首を横に振って“そんなことはない”と言ってくれた。
「俺の家族の話はこんなもんだな。
…で、あの日がやってくるわけだ。」
「あの日?」
「そう。俺と明が初めて書店で会った日だ。」
俺はあの日、就職して初めての初任給ってもんを貰った。
両親の居る家に帰って食事につれていったり、なにか贈り物をするなんて気になれなくて、初任給の一部を振り込んだが、なんだか虚し気持ちになった。
仕事のことを考えようと、勉強がてら書店に経済誌を立ち読みしに向かった。
就職してからと言うもの、繁華街に程近い場所にあるその書店で経済誌を立ち読みするのが俺のささやかな日課になっていた。
そして、夕方5時ごろになると、ある男が同じく立ち読みをするのも、俺としては見慣れた光景となっていた。
「?それって…」
「そう。明のことだな。」
今思えば、ただ視界の隅に入れているだけだったハニーブラウンのそれに、俺から話かけることになるなて思ってもみなかったんだ。
やたらとよく見かけるホスト風の男が、俺が入店した時間にはまだ来ていなかった。
興味本位でおれはその男が何時も立っているコーナーを見てみることにした。
「…写真集…。」
動物だったり、風景だったり、ドキュメンタリー風の写真集だったり。
そこにならぶ写真集はそれぞれの世界を見せていたけれど、そのどれもが違っていた。
「あ。これだ。この写真集。」
一際目立つその写真集は残り3冊。どうやら人気らしく、この3冊がラストで、暫くは在庫が入らない状態らしい。
売れてしまえばあのホストは残念がるだろうか?それとも、流石に焦って買うのだろうか。
ぼんやりと考えていると、店の外にそのホストの姿を見つけ、俺は何故だか慌てて普段の経済誌の棚へとの逃げ込んだ。
「なんで俺はコソコソしてんだか。」
その後、何時もどおり立ち読みをするフリをしながらホストの男を観察していた。
1ページ1ページ丁寧にめくるその指先
キラキラと輝くその瞳は
まさに夢をみる少年そのもの
俺にはない輝きだった。
そんな様子を見て、きっとこのホストは今日も買わないのだろう。直感で感じた俺はそのホストの居る写真集売り場に行き、2冊をつかんでレジへ直行した。
運よく、初任給を下ろしたばかりだったので財布の中身には余裕があったし、もう衝動買いとしか言いようが無かった。
だけど…今思えばこのとき声をかけたのが…
「お前、毎日同じ写真集を立ち読みしに来てるよな?」
本当の、俺たちの始まりだったのだろう。
カフェ☆Boys
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