Story

□熱線
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***


 高校に進学して始めての夏。

 いや、もうすぐ夏本番と言えるころ。僕はすでに…この消毒液のにおいの充満する部屋にお世話になっていた。


「貧血ね。少し寝ていなさい。それと、3食欠かさず食べるように!いいわね?」

 今年から新に赴任してきたらしい保健医の先生はまだ若く美人で、こんなむさくるしい男子校に勤務するなんて大丈夫なのかと思っていたが…
 彼女のはきはきとして気丈な姿を見れば、余計な心配だったようだと考えを改める結果となった。
 僕は苦笑いをこぼしながら短く“はい”とだけ答え布団を被る。

 体を真っ白なベッドに預け、僕は目を閉じた。
 だるい体がフッと浮くような感覚がして僕はそのまま眠りに落ちる。


 僕が保健室に向かったのが2時間目の途中だった。目を覚ますと丁度昼休み前で保健医の先生にお礼を言って教室に戻ることにした。
 3食ちゃんと取れといわれたのだから弁当を食べないわけにはいかないだろう。そう考えたのだが…

 ベッドについているカーテンを開けると、そこには見慣れた顔があり、保健医とやたら親しくなっている僕の友人。三城(みき)が僕の鞄を持ってソファーに座っていた。

「おっ!起きたか時(とき)!」

 僕の友人にしては陽気で顔立ちのいい三城は外見こそかっこいい部類だが、属に言うヘタレと言うやつで、実際はかっこいいとはかけ離れた男である。

「…三城?僕の鞄持ってきてくれたんだ。ありがとう。…でも…。」
 
 ここでお昼を食べるわけにはいかないと、僕が続けようとすると、保健医が“構わない”と言うもんだから、三城はそそくさと自分の弁当を広げ始める。

「時さー暑いの苦手な上に、あんま調子良くないんだろー?せっかくだから涼しいここで食べれるだけ食べておきなって。」

 おちゃらけたように三城は言うけど、ちゃんと心配してくれていると僕は知っているので“…そうだね”とだけ答える。

 何時もの日常。それがなんだかくすぐったかった。僕にとって学校での時間はどこか淡々としていて、映画館で映画を見ているかのような…どこか遠い出来事のように感じられる。ただ、こうして人と接する時間だけが妙にリアルで小さな刺激になり、それは僕の普段の感覚とアンバランスとしか言いようがなかった。


 昼休みを終え、午後の授業には全て出席。
 あとは整備委員会の活動のみとなった。


 誰もやりたがらなかった整美委員の仕事を僕がやることになったのは入学してすぐのホームルームで決まったことだった。
 この無難で、真面目。そして少し内気な僕のイメージがあったのだろうか。初対面に等しいクラスメイト達から推薦され委員になった。

 知らない人達が挙手し、僕はそれをなんとなしに見つめた。ただ、“わかりました。やります。”とだけ答えればホームルームはすんなりと次に進む。

 波風立てず、受け流し…僕はやはり第三者的な目線で自分の名前の書かれた黒板を見つめていた。
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