Story
□熱線
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ゴミ袋を片手に掃除区域外の職員用駐車場やテニスコート裏。そしてプールの周りの清掃に向かう。
少しきつくなった日差しは貧血で弱った僕の体にも変らず降り注ぐ。
「もう…夏…か。」
先日行われたプール掃除できれいになったプールを見ながらそんな事を口にする。
そう言えば、僕が最後にプールの授業に出たのは小学4年生の時だ。それ以来僕はプールの授業を受けていない。否、プールだけではなく持久走や激しい運動は行っていない。ただ、運動不足にはならないよう日ごろから歩くようにはしていたりする。
バシャン
水がはねる音がした。
ヒバサミを使ってゴミ拾いをしていた僕の手がピタリと止まる。ふと顔を上げ、僕の視線を遮るコンクリートの壁の向こうを覗き込めばプールには一人の生徒の姿があった。彼はまだ水の少ないプールに入り歩いている。
それはコースをなぞるように、確かめるように。
何かの儀式のように。
彼はジャージが塗れるのも構わず、そっとプールの底に膝をついた。
目が離せなかった。
何故かなんてわからない。ただ、珍しい光景だったからなのか…僕とは真逆な彼の姿に、小さな憧れにもにた気持ちが芽生えたのか…僕にも理解できない感情だった。
直射日光を浴びたままだった僕はフラリと体が揺れたのを感じた。
プールの周りに廻らされた金網を掴んだ。
古くなった金網がガシャンと悲鳴を上げる。
ズルズルと座り込み、熱くなった額を押えた。
プールの方からバシャバシャと水の音が聞こえたかと思えば、先ほどまでプールの中にいた彼が目の前に立っていた。
「お前…どうした?」
覗きこむように俺の顔を見つめる彼はやはり僕と違って端整で、そしてとても輝いていた。
「…ちょっと…貧血…ぎみなだけだ。少し休めばよくなるから。」
大丈夫だと、少しでも伝えたくて小さく笑って見せれば、ぐいっと腕を引かれ支えられるようにして日陰まで移動させられた。
「ちょっと待ってろ。」
彼はそう言うと僕を地面に座らせまたプールの方へ戻っていった。