Story
□ショートケーキストーリー
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ふわりと甘い
とろける優しい味
漂うのは
ほろにがく香ばしい
珈琲の香り
ショートケーキストーリ
俺は小山一久(コヤマカズヒサ)今年で28にる性別男。職業はこのカフェの専属バリスタである。
そして、そんな俺には現在進行形で気になる2人の人間がいる。
一人はオーナーであり幼馴染の山下淳也(ヤマシタジュンヤ)。店のオーナーでありながら一番のムードメーカーだ。
幼い頃から兄のように慕っていた人でもあり、憧れ、そして密かに俺が想いをよせている人物である。
そして
もう一人は
「っ!なんだよ!何か言いたいことあるならハッキリ言え。」
「……なんでもない。」
背中に感じた視線に振り向けば、そこにはもう一人の気になる人物である三ツ谷が立っていた。こいつは姓しかしらない。興味もない。
だけど、不意に感じる視線だけはやたらと気になってしまうのである。
「なんでもないって…お前なぁ!」
俺が文句の一つでも言ってやろうとすれば、カシャカシャと金属同士が軽くぶつかる音が聞こえてくる。
すらっとした立ち姿に白い制服とエプロン。白い帽子。
そう。こいつはこの店のパティシエだ。
何時も無口、無表情で黙々とスイーツを作り上げる。何を考えているのかわからない男だ。
あえて言うまでもないが、俺は何事もハッキリキッパリ、物事は白黒つけたいタイプの人間だ。
菓子と珈琲は。美味いか不味いか。
人は、好きか嫌いか。
我ながらなんとまざっくりとした性格だと思う。しかし、しかたないじゃないか。これが俺なのだ。
理解できない三ツ谷の行動にイライラしていてもしかたがない。
俺は乾燥の終ったカップを真っ白な布巾で拭きながらまた物思いにふける。平日の夕方は客も少なく静かだった。
ところで、うちのケーキメニューには何故だかショートケーキが無い。
俺が一番好きなケーキであり、淳也さんに惹かれた理由。そして俺がこの店のバリスタを目指したきっかけになったケーキなのに、だ。
俺がこの店の専属バリスタになってすぐに、三ツ谷がこの店のパティシエとしてやってきた。
元々、オーナーである淳也さんはパティシエをしていて、先代のオーナーが亡くなったため、修行先の店を辞めてこの店を継いだ。俺はおじさんが作る優しい味のケーキも大好きだった。
おじさんがオーナーだったころは確かにショートケーキはメニューにあったと俺は記憶しているし、三ツ谷もパティシエの端くれだ。作れないはずはない。
だが、事実。
メニューにショートケーキは無い。
「ねぇ、淳也さん。」
「ん?なんだ?カズ。」
レジでパソコン片手に事務処理をしながら淳也さんは返事をした。
店の中は差し込んでくる西日でオレンジ色に照らされている。
「なんでうちの店にはショートケーキが無いんだ?」
「んー…何でだろうなぁ…。」
気のない返事を返す淳也さんに俺は首をかしげる。
「三ツ谷に聞いてみな。」
それだけ言うと淳也さんはまた忙しなくキーボードを叩き始めた。
横顔だけでもわかるその端整な顔立ちを見つめながら、俺も小さく”うん。”とだけ答える。