NOVEL

□the Vampire moon of Princess
1ページ/4ページ




その日の夜は、血が騒ぐようなまん丸の満月で、俺はひどく目が冴えた。











「―…おい。ポルストロイ、こんな夜中にどこへ行く」


「ちっ、うるせーな。散歩だっつーの」



「……無駄な狩りをするなよ」





「…けっ」








ジョブスはうるせぇ。
俺がいつどこで何をしようが勝手だろう。


こんな満月の日は血が騒ぐんだ。










俺は目的も目的地もないまま、ただそのバンパイアの翼で夜空を散歩した。

梅雨明けの空は、まだどこか湿っぽくて、だが、ひんやりとした夜風は俺に凪を与えた。





そしてそう。


そんなどこか自身を見失ってしまいそうな静寂な空間で、お前に出会った。








「…あ…?」














鳥肌がたった。











「お前……」





どこかで見た女だと思った。
ただ、それ以上は思い出せなくて、俺は何故か引き寄せられるように地上へと降り立った。






桜色の髪。
深海のような蒼い目。
透けるような肌に、真っ白のワンピース。
長い睫。
揺れる大きな翠のピアス。




その少女は、無防備に、そしてガラス玉の様な瞳で俺を見た。









「…あなた…」


「!」



一瞬見とれた自分に渇を入れ、俺は普段の魁偉な容貌を纏った。


だが、それにも少女は反応することなく、穏やかな風貌を崩さなかった。




俺が牙を向けば一発だろうに。








「お前、俺を知ってんのか?」

「うん。名前は知らないけど…、戦ってる姿なら充分見たよ」


「…真拳使いの仲間かよ」

「まぁね」



にこりと少女は微笑った。

まともに人間なんかと喋らねぇ俺は、こんなに綺麗な笑顔は初めてみたと思った。





「…綺麗な月だね」

「……お前も月を見にきたのか」


「そうよ。ここからの眺めは最高なの。今までたくさん旅をしてきたけど…こんなに綺麗な月を見たのは久しぶり」




そう言って少女はまた微笑った。








<
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ