NOVEL
□the Vampire moon of Princess
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その日の夜は、血が騒ぐようなまん丸の満月で、俺はひどく目が冴えた。
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「―…おい。ポルストロイ、こんな夜中にどこへ行く」
「ちっ、うるせーな。散歩だっつーの」
「……無駄な狩りをするなよ」
「…けっ」
ジョブスはうるせぇ。
俺がいつどこで何をしようが勝手だろう。
こんな満月の日は血が騒ぐんだ。
俺は目的も目的地もないまま、ただそのバンパイアの翼で夜空を散歩した。
梅雨明けの空は、まだどこか湿っぽくて、だが、ひんやりとした夜風は俺に凪を与えた。
そしてそう。
そんなどこか自身を見失ってしまいそうな静寂な空間で、お前に出会った。
「…あ…?」
![](http://id48.fm-p.jp/data/19/honeysheep69/pri/4.jpg)
鳥肌がたった。
「お前……」
どこかで見た女だと思った。
ただ、それ以上は思い出せなくて、俺は何故か引き寄せられるように地上へと降り立った。
桜色の髪。
深海のような蒼い目。
透けるような肌に、真っ白のワンピース。
長い睫。
揺れる大きな翠のピアス。
その少女は、無防備に、そしてガラス玉の様な瞳で俺を見た。
「…あなた…」
「!」
一瞬見とれた自分に渇を入れ、俺は普段の魁偉な容貌を纏った。
だが、それにも少女は反応することなく、穏やかな風貌を崩さなかった。
俺が牙を向けば一発だろうに。
「お前、俺を知ってんのか?」
「うん。名前は知らないけど…、戦ってる姿なら充分見たよ」
「…真拳使いの仲間かよ」
「まぁね」
にこりと少女は微笑った。
まともに人間なんかと喋らねぇ俺は、こんなに綺麗な笑顔は初めてみたと思った。
「…綺麗な月だね」
「……お前も月を見にきたのか」
「そうよ。ここからの眺めは最高なの。今までたくさん旅をしてきたけど…こんなに綺麗な月を見たのは久しぶり」
そう言って少女はまた微笑った。
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