NOVEL

□the Vampire moon of Princess
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俺は女の肩を捕まえる。

一瞬、女の身体が大きく竦んだ。







「…バンパイヤ…」

「―知ってんじゃん。」


目の前の白くて柔らかい肌は、絶好のご馳走だった。

俺の中では、“殺したい”よりも、“喰いたい”という征服感が脳を占めていた。



ただ、その感情さえ持ったことのない俺だから、名前を知ることのない衝動に、ただ涎が出た。









「―…私を殺すの?」

「…まぁ、喰っちまったらお前は死ぬな」


「………」



女は無表情だった。
掴んだ肩は小さく震えていたが、怯えた様子はあくまで見せなかった。


俺は牙を剥き出しにする。







「…逃げるなら今のうちだぜ?」


「逃げられないでしょ」


「ケケケ…、賢いな」





俺はゆっくりと少女の首筋に牙を向ける。










「―……」










「……たべないの?」





俺は牙を突き刺せずにいた。


なんでかは、わからねぇ。







「―…気が変わった。」

「……え…」




「!おいッ…」


俺がそう言い捨て、牙を離すと、瞬間女の身体は一気に脱力し、地に倒れそうになった。

つい俺は、その身体を支えた。




「ありがと…」


「お前…」





「怖かったぁ…」


「は?」



俺に支えられながら、女は小さく微笑んだ。
ペロリと舌先を出して、少し情けなさそうに。

…可愛い仕草だと思った。




「頑張って強がってたけど…も〜怖くて…。ホントに食べられちゃうかと思ったぁ…」

「……」


「…でも、初めて見た時から思ってた。あなたは女の子には手を出さないって」


「…ンなことねぇ。甘くみんな」



「でも私を食べなかった」

「……」



女はまた笑った。
白いワンピースが夜風で優しく揺れた。












「―…そろそろ戻らなきゃ」

「え‥」



「バイバイ、ポルストロイさん」




「おい‥っ」




女は笑顔で手を振ると、ヒラヒラと街へ帰っていった。







きっとまた出会う。

そんな気がした。






ただ、それがどんな出会いになるかは、この満月だけが知ってる。






*fin*
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