Birthday

□君の背中
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私の幼なじみは、この近辺の中学校ではかなりの有名人だ。

理由は、無駄にでかい身長。
無駄に重たい下駄。
無駄にもじゃもじゃの頭。
遠くから見てもすぐにわかるその容姿。

それに加えて、「九州二翼」だということ。




その幼なじみが片目の視力を失ったのは、中学二年生のときのこと。

私が病院に駆け付けたのは、全てが済んだときだった。

いきいきとして黄色いボールを追っていたころの瞳はなく、ただぼんやりとなにもない天井を見つめていた。
その右目には、痛々しい真っ白い包帯。

自然、涙が出た。


「…せんり……、」


その名を呼ぶと、彼は「大丈夫だ」とでも言うように小さく微笑んだ。

その笑みを見て、私はその場にへたりこんで泣いた。




桔平がいた。

幼なじみの怪我から数週間、彼も千里同様ほとんど学校に来ていなかった。


「東京に、引っ越すことになったばい…」


私の家の前に立っていた彼は、開口一番そう言った。

逃げるのではないと思った。

彼は私の知っている人間の中で一番真面目で、誠実で、正直なひとだったから。


私は頷き、それから一言二言交わして、私たちは別れた。

以来、私たちは会っていない。


去っていく彼の背中を見て驚いた。

いつも真っ直ぐで、自信に満ち溢れていたその背中。そしてその隣にあったもじゃもじゃ頭の大男。

輝く二人の背中が、私は大好きだった。

けれど、一人になったその背中は、とてもとても小さかった。

だからだろう。

千里の右目を奪った彼が憎くて、
罵ってやりたかった、
責め立ててやりたかった、
追い詰めてやりたかった、

しかし、それができなかったのは。




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