†ラグナロク神界編†

□†chapter.4†
1ページ/2ページ

人間は行動を約束することはできるが、感情は約束できない。思うに、感情は気まぐれだからである。
−ニーチェ 「人間的な、あまりに人間的な」

†††††††††

 黒い獣が・・・重く響き渡る重厚な唸りをあげている。それは、全てを恐怖と不安に駆られる様な、夜と共に絶望と死を運んでやってくるだろう。その声と共に重なって聞こえてきたのは、オーディンに言われた言葉。
「スクルド・・・今回はフレイアに任せて、休め」
 そんな命令だった。スクルドは驚いた様に目を丸くし、頷く事も何もせずに黙って突っ立ていた。面倒な任務からの久々の休みを言われたのに、嬉しいと思えない。だが、これは命令だ。決して首を横に振ることの出来ない。
「・・・解りました」
 そう短く返答し、一礼してからヴァルハラを後にした。一瞬、オーディンの隣にいたフレイアの微笑と目が合った気がした。
 そして今に至る。先程聞こえてきた黒い獣の咆哮が頭をよぎる。あれはよくない前兆だ。聞いてはいけない、見てもいけない。何か嫌な予感が不安が胸中の中に渦巻いている。あの獣の姿はまだ確認はしてはいないが、見たことのある獣。スクルドはふと前から歩いてくるウェーヴがかった銀髪の少女の姿をしたボダがいた。ボダもスクルドを大きな紫紺の瞳に捉えると、捕食者の様に細め血色のいい唇を歪めて笑った。底の高い黒い靴の踵を鳴らしながら、黒くレースのついた傘で自分の顔を隠しながら横切る瞬間、
「この世界は破壊と創造の連続だね★それを止められるの?」
「どういう意味?」
 思わず後ろを振りかえったが、そこにはもう少女の姿はなかった。
「・・・」
 破壊と創造の連続。そう、この世界は破壊されてリセットされて、もう一度誰かが新たに創造する。その為に多くの流血で溢れかえり、悲劇を産む。そんな事までして、世界を変える意味があるのだろうか。また、それを繰り返したら破壊して創造する。その為に、また記憶を・・・スクルドははたと立ち止まり、頭をおさえた。記憶をの後に続く言葉なんだったのだろうか・・・
『お前の意志はどこにある?お前は私たちと同じ・・・人間だろう』
 そんな事を誰かに言われた記憶がある。それは誰だっただろう。視界にはクラリスが悲しい微笑を浮かべていた。
「おはよう、スクルド。相変わらず命令通りに動いてる可愛い人形をしてるんだな」
 そこには皮肉がたっぷりと含ませて話すヴェルダンティの姿だった。スクルドは、表情を変えずに見た。いつのまに現れたのか気付かなかった自分に内心では腹がたっていた。
「あなたは違ったの?」
 そう言うと、ヴェルダンティは笑みを深くした。それは皮肉も嘲りもない笑み。
「自分の意志だと思っていたものが、実はそうでないかもしれない。だが、オーディンの為に動くのには嫌気がさした」
 ヴェルダンティは自分の胸に手を当てた。
「それは私の感情に従ったんだ」
 そしていつもと同じ嘲りを込めた笑いと目でスクルドの胸に指をさす。
「お前の本心はどこにあるんだ?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ