*二次創作小説*

□迷える淫らな純情少年たち
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 現実はいつも悲しく、夢は儚く消えてしまうものだから。だから、ずっとここにいるのも意外と嫌いじゃない。自分の思い描いたとおりの光景を創れるからだ。
 だが、水牢の中は退屈だ。楽しみもない。ここから出て、また自分の存在を世に知らしめ、あちこちを恐怖と混沌という脅威に突き落としてやりたい。そんな欲がざわりと心を揺らす。無造作に伸ばされている青みがかった黒髪、目には開く事ができない様にと縫われた左目に右目は幻術をかけて人を惑わせられないようにか、太いチューブみたいなもので繋がれていた。そして逃げられない様に手枷を、口枷からは水中からでも呼吸や必要最低限な栄養を送れる様にかチューブみたいなものに繋がっていた。息苦しい。何もかもが。現実なんて、どこか白けさせられてつまらない。あぁ、だが彼らは違う。自分を楽しませてくれる。予想以上に。だからまだ生きていたいのだ。
 ここは退屈だ。何もする事もない。偽りの世界へと散歩でもしよう。
それに呼応するかの様に真っ暗な視界が、美しく色鮮やかな世界へと変わっていく。草原が風に揺られる。桜の花びらもひらひらと舞い、どこか儚げなのに美しい。
「クフフフ。こういうのを情緒ある眺め、と言うのでしょうね」
 思わず目を細めてほうっと溜め息を吐きながら呟かれる言葉。少しだけ回復して使える僅かな力に満足気に微笑みながらゆったりと歩き出す。それもしっかりとした足取りで。1本の桜の木に触れて、初めて出会い四つん這いに這い蹲せ完膚なきまでに叩きのめした相手を感慨深げに思い出した。桜は風情があって好きだ。この木の下で眠りにつくのは、居心地がいいから好きなのだ。陽の光も当たって更に気持ちがいい。
 そして何よりも桜はあの男の様に、綺麗で純潔。精神的にも美しい。そんな神聖視に近い感覚を持ってしまった事に気がつき、骸は内心苦笑してしまう。10年も離れていると、こんなにも変わってしまうのだろうか。会えない時間が余計にそうさせたのかはよく分からないが。
 だが、それ以上にその清廉された美しさを自分の手で醜くグチャグチャに汚してしまいたいと、望んで仕方がない自分もいた。その為の美しさなら喜んで、ぐちゃぐちゃにしなければ逆に、失礼ではないだろうか。骸の青の瞳が暗く淀んだ欲求に輝く。
だから早く会いたい。逢いたい。遭いたい。
 口の端が自然につりあがり、幻想的で美しい世界に目を向けた。これで面白いものが視れたらもっと良かったのに、と思うと残念な気持ちだ。そっと包帯で巻かれた目を指でなぞる様に触れてみる。くっきりと空洞だ。
「・・白蘭やってくれましたね」
 右目を使い物にならなくなるされ、力を行使できない程にまで重症を負わされた。殺す事が目的ではないが、ここまで屈服させられて屈辱を味わうのも思い出されるだけで腹ただしくて仕方がなかった。
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