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□星屑の海にたゆたう
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涙が止まらないのは、彼のいない世界がこんなにも簡単に回っているせいだろうか。
それとも、彼の匂いが消えないからだろうか。





星屑の海にたゆたう





部屋のいたるところに残る彼の痕跡に、私は触れることもできずにいた。
例えば、二人で行った遊園地で、着ぐるみの人に撮ってもらった写真。
写真が苦手だった彼の顔はすこしぎこちなくて、私はそのことで彼をよくからかった。
例えば、薄いブルーのマグカップ。
私のいつも使うピンクのものより一回り大きいそれは、彼のお気に入りだった。
例えば、二本並んだ歯ブラシ。
いつのまにか当たり前になっていたけれど、二人で暮らし始めたばかりの頃は、こんな物でさえまぶしくて、いとおしかった。

彼はもうどこにもいないというのに、いまだに郵便受けには彼宛ての手紙が届く。
私宛てのものがないときも。
私が読むのはなんだか気が引けて、手紙は部屋の隅にまとめて置いておくのが習慣になっていた。
彼はもう居ないのに、彼が少しずつ増えていく。

ああ、彼がいない日々が、浸食、してくる。

読まれることを待っている紙の山に、涙がひとつ、落ちた。
泣くな、という声が聞こえた気がした。
「くにみつ…」

彼の名を、呼ぶ。
優しい彼の温度を思い出したせいなのか、背中があたたかい。

「…国光」

まるで彼に抱きしめられているみたいだ、と思った。
彼がもういないと思うには、まだ彼のいたしるしが多すぎる。

彼の遺した二人用のちいさな世界で、星屑に囲まれて私はまた泣いた。










――――――――――
はい、初の救いのない死ネタです。
我が家には普通の手塚がいないことに気付いてしまった…
復活してのっけからこんなんですみません。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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