T
□サイダーと帽子
2ページ/3ページ
机を指でトントンと叩く。グラウンドの喧騒で、あまり響かなかった。
…遅い、な。
今度はさっきより強めに、リズムをつけて叩いてみると、指先がじんじん痛くなった。
さっきから蝉のこえがうるさい。暑さを増幅させるその音に、耳をふさいだ。
そのとき。
ガラ、と教室の引き戸が開いて、待ち人がようやく現れた。
「…よう」
結果は、訊かなくともわかってしまった。
宍戸は引き戸に手をかけたまま視線をあちこちに泳がせて、入り口から一歩も動こうとしなかった。
ああ、これは。
「とりあえず、座りなよ」
ひとつ前の席の椅子を引いた。
宍戸はいまにも倒れそうな覚束ない足取りでふらふらと教室に入ってきた。
私は鞄をごそごそ探って、失恋したら自分で飲もうと思っていたサイダーのペットボトルを取り出した。
「飲む?」
「…ああ」
ぷしゅ、と気の抜けるような音。
宍戸はそれをひとくち飲んだ。
「…微温ィ」
「朝から鞄に入ってたから」
不味いな、と宍戸は顔をしかめた。
「どうだったの?…ってまぁ、なんとなく想像つくけど」
私はいま、どんな顔をしているのだろう。
「玉砕。…っとに、激ダサだぜ」
.