basara

□飼い殺し
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『……』

薄暗い、殺風景な部屋。
ここは大阪城の牢獄、差し込んだ月光の先には一人の少女がいた。

少女は虚ろな瞳で鉄格子の奥、雲の隙間から覗く月を眺めていた。


キィ、

扉の開く音がする。
その先にはすらりとしたシルエットの青年が立っていた。
少女は、青年には目もくれずに

『殺して』

ぽそり、呟いた。


だが青年もまた、そんな戯言に耳を傾けること無く少女に歩み寄る。
そして彼女の首筋にねっとりと舌を這わせ、歯を立てた。

ぷつり。少女の透き通るような白い首に、溢れ出る紅がよく映える。
青年は法悦の眼でそれ等を舐め取る。

「…、は……ふ」
『ッ――い、ぅ…』

更に紅を求め、ぐりぐりと舌が入り込んでくる。
少女が必死に口を開き、空気を肺に取り込もうとする中、ななし、ななし、と譫言の様にそればかり繰り返す青年。

ななしと呼ばれた少女は酸欠の所為か、紅潮し息遣いも荒い。
皮肉にもそれ等が彼を煽り、行動を更に激化させる。

抵抗しようともななしには四肢が無かった。
目の前の青年、石田三成によって奪われたのだ。

抵抗出来ぬように。
逃げ出さぬように、と。

結果彼女は逃げ出さ無かったし、抵抗も初めよりは少なくなった。まあ、胴より先が無くなれば誰であろうとそうなってしまうのだが。


こうなってはもう、三成無しでは死んでしまう身体に成り果てるのを待つばかり。

三成が秀吉の命を受け、戦場へ駆り出されている間。
当然ななしは外を知ることも、見ることも出来ずに只こうして寝ている事しか出来ず、自分をこんな目に陥れた犯人の帰りを待ってしまう。

そんな自分がいる事に激しい嫌悪を覚えた。

でもどうする事も出来無くて。



朽ちてゆくのはこの身か、はたまた脳髄か。



さてどちらやらと、物思いに耽りながら今日もまた溶けてゆく。


飼い殺し




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ななしちゃんも戦場に連れてってあげて欲しいものです

 

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